
愛すると言う事…
第8章 《After that episode》
結果、智は退院して1年が過ぎた頃から左腕に痺れを感じ始め、病院に行ったらやっぱり後遺症だろうとの事で。
智「………俺は、それでも気になんなかった」
潤「………」
智「…翔さんが、『もう二度と居なくなるな』って…泣いたあの日から俺は、この人の傍で生きるって決めたから。……腕や足が動かなくても、俺が居る事であの人が笑ってられるならそれでいい気がしたから」
智は本当に心からそう思ってる様だった。
智の顔が、今までに見た事のない穏やかで柔らかくて……幸せそうな表情だったから。
もう、"あの頃"の智は何処にも居なかった。
一緒に店で働いてた俺の知ってるNo.1は、居なくて。
当時の智は人間味がないと言う言葉が正しいかは分かんないけど、本当にそんな感じ。
人には全く興味がない。
いや、自分にすら興味がない感じだった。
なのに、今目の前に居る男は、表情だけじゃなく纏う雰囲気すらも柔らかく穏やかだ。
智「………翔さん。……あんな顔して、俺が何にも言わずに出掛けたら死にそうな顔して探し回る」
そう言って、やっぱり笑う。
話す口調は昔と変わらずゆっくりでのんびりしてるけど、声音は昔と違って遥かに柔らかい。
潤「…探し回る?」
智「……ん。"あの日"を思い出すらしい。…俺が黙って居なくなった日。最近はもう、俺が長い距離歩けないの知ってるから…黙って出掛けたら怒られるけどな?」
翔「怒るんだ?」
智「…ん、馬鹿みたいに怒る。無理すんなって…今じゃ近くのコンビニしか行かせてもらえない」
言葉は彼への愚痴だけど、やっぱり顔は笑ってる。
あぁ、俺…
気付いた瞬間に、失恋…じゃねぇ?
潤「…店は?」
智「……あぁ、行ってはいる。…けど、事務所に居る。頭悪いから経理とか難しい事出来ないけど、客の管理とか店の連中の事いろいろは出来るから」
潤「へぇ。…じゃあもう、客の相手はしてねぇの?」
智「…ん。……こんなんじゃ連中だけじゃなくて客にまで迷惑掛けるからな?」
全く動かない訳ではないらしい。
けど、力は殆んど入らないくらいで、握力は子供以下だと笑って教えられた。
