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愛すると言う事…

第8章 《After that episode》


シャワーを浴びて出て来ると、缶ビールを手にリビングに戻った。

智の隣に座ると、少しだけ身体をずらす。

明らかに俺を避けてる。
視線を向けても見向きもしない。

怒らせた…

完全に、智が俺を無視してる。
現に呼んでも返事どころか見ようともしない。

潤「……智…?」

智「…ん?」

潤の声に返事をするこいつに、いくら俺の所為とは言えムカついた。

話をしようにも潤が居たんじゃ出来ねぇし。

…と、思った俺に気付いたのか否か。
潤が腰を上げて『…そろそろ』と声に出したけど、智が何故か引き留めた。

……なるほど。

俺の話も、聞く気はないって事か。
だったら、もう俺がここに居る理由はない。


中腰の潤が戸惑ってるのを、俺が変わりに立ち上がる事で制した。

翔「……ゆっくりしていけ」

缶ビール片手に、俺はリビングから寝室に向かった。

ドアを開けて、少し振り向いた俺は智の背中に返事が無いことを承知で声を掛ける。

翔「………智。…言いたい事はちゃんと口に出せ。じゃないと、誤解を解く事も出来ねぇ」

やっぱり、返事は無かった。

それでもこれだけは言っておかないと。

翔「……いくらお前が俺を嫌になっても………手放す気はねぇからな?」

それだけ言って、静かにドアを閉めた。

真っ暗な寝室は静まり返り、ドアの向こうのリビングもまた然り。

ちゃんと説明もさせてもらえないのは、何より辛い。
それでも、強引に無理矢理にでも話そうと思えば出来た。

それをしなかったのは、智にもう少し本心を言ってほしいから。

ムカつくと…
何で違う匂いなんだと…
客と接する事がなくなった俺に、女の匂いがするのは明らかにおかしい。

問い質すような事をしてほしい訳じゃないけど、もう少し本音を吐き出してほしかった。
グッと飲み込んでしまう癖を、未だに捨てきれない智。

時にそれが、"もしかしたら俺だけが好きなんじゃないか"とまで思わせるから。


缶ビールを飲み干し、ベッドに入ってもこんな時間に眠れるはずなんかない。

況してや隣に居るはずの智が居ないんだ。


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