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愛すると言う事…

第8章 《After that episode》


そう言えば、夕方もちょっと言い合いになったっけ。
思わず吐き出した溜め息は、誰の所為なのか。
もっと大きくありたいのに、智相手じゃ本当に呆れる程小さくて情けないと、改めて思う。

淋しさと虚しさと、歯痒さと…

智は智のままでいいと、思い直して。
部屋に入ってきてくれる事を、ただ願った。





何度も何度も、無駄に寝返りを打つ。


どのくらいそうしてたのか…

静かにゆっくりと、ドアの開く音を耳にする。
ドアの隙間からリビングの明かりが洩れて筋になってた。


寝てると思ってるのか、智はドアの傍から動く気配が無くて。

声を掛けようか躊躇ってる様だった。

智「………翔、さん…?」

小さな小さな智の声。

呼ばれただけなのに、泣きそうな程嬉しくなる俺は重症だ。

智「……寝て、る?」

翔「…いや」

智「………」

返事をしたのに、そこから動こうとしない。
しかも、無言を返す始末。

だけど、俺は智の言葉を根気よく待ってみる。

元々、テレビを見ない智だから、リビングも寝室も静かと言うより無音に近い。


そんな時間は、俺にしてみれば本当に胸が痛くて。
起き上がって智を抱き締めて説明してしまいたい。
『悪かった』って、智を無駄に責めてしまった事を謝りたい。

智「………翔、さん。………ごめん。…俺、ちゃんと言えないから…」

翔「………」

智「…ちゃんと言えって、いつも言われてるのに………言いたい事、言ったら…迷惑なんじゃないかって、思ってやっぱ言えなくなる」

翔「………」

必死で堪えてた。

多分、まだまだ吐き出す言葉はあるはずだから。
今起き上がって抱き締めてしまえば、溜め込んでる全部を吐き出す事が出来なくなってしまう。

智「……分かってるんだ。…翔さんがちゃんと思ってる事聞きたいのも、言わなきゃなんない事も。だけど……"翔さんなら、分かってくれてる"って、どっかで甘えてて…」

翔「………」

智「…………ごめん。…翔さん」

布団を剥ぐって起き上がった。

ドアの傍に立ってる智の顔は、リビングの明かりで殆んど見えない。

それでも……見えなくても分かる、智の涙。

ベッドを下りて傍に立つと、やっぱりその頬を涙が一筋流れてて。


そっと、ゆっくり…目の前の智を抱き締めた。


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