
愛すると言う事…
第8章 《After that episode》
《side 潤》
翔さんの手を払った智。
確かに、俺の所まで匂った香水の香りは明らかに女物で。
シャワーを浴びて戻って来ても、智はまったく翔さんを見ようともしなかった。
ヤキモチ。
簡単に言ってしまえばそうだけど。
怒った翔さんの気持ちも、分からなくはない。
でももう少し何か言ってやっても良かったんじゃねぇか?って思わなくもなくて。
寝室に入ってしまった翔さん。
智はそれからずっと無言だった。
翔さんの手を払った時は睨み付ける様な顔してたのに、今じゃ泣きそうな顔してる。
"言いたい事はちゃんと口に出せ"
そう言った翔さんに、俺は"言えない奴だって居る"と言ってやりたかった。
潤「……智?……大丈夫か?」
声を掛けても返事は無くて、顔も上げなかった。
潤「……もう少し、何か言ってくれても良かったよな?説明してくれても…」
智「……………ぃんだ」
潤「ん?」
智「……俺が、悪い」
潤「何でだよ?…女の匂いさせて来たの向こうだろ?」
翔「………違う。…そんな事、どうだっていい」
潤「…は?」
智「……俺が言いたい事言えないのは…昔からで……餓鬼の頃、親戚の家にたらい回しにされてた時…"ああしたい"とか"こうしたい"って、思った事言ったら怒られて怒鳴られて…"お前の願望は周りに迷惑だ"って言われ続けてた」
潤「………」
智「…だから、言っちゃいけないって思った。………翔さんは、『もうお前は"あの頃"のお前じゃない。…だから思ってる事はちゃんと言え。俺はちゃんと聞くし、迷惑なんかじゃない』って、いつもいつも言ってる。だけど……どうしても、怖いんだ」
智はそう言って更に俯いた。
簡単な…
単なるそこら辺でよく聞く"ヤキモチ"なんかじゃない。
そんなレベルじゃなかった。
翔さんは、智の奥深くまでちゃんと見て考えてる。
そりゃ、敵うはずねぇよ。
…ってか、戦うどころか相手にもされてねぇ気がした。
