
愛すると言う事…
第8章 《After that episode》
"お前なんかじゃ無理だ"
そう言って現実を叩き付けられた気がする。
また、部屋に静寂が訪れた。
声も掛けられない。
だって、俺なんかが何か言ったところで、智には届かない。
それほど二人は、俺の知らない間に強く繋がってるんだと思う。
どのくらい経ったのか。
泣きそうな顔した智が、徐に立ち上がる。
翔さんの入っていった寝室の前。
ドアノブに手を掛け開ける事を躊躇ってる智の背中を、ただ見つめる事しか出来ない俺。
数分、躊躇った智がゆっくり静かにドアを開けたけど、入ろうとはせず『………翔、さん…?』って小さな小さな声を絞り出した。
相手の声は聞こえて来ない。
本当に寝てしまったのか?
だったら、俺が泣きそうなその背中を抱き締めてしまおうと思った。
智は智のままでいいじゃねぇかって、俺がお前を笑顔にしてやると、言ってやりたかった。
…だけど。
智の"ごめん"って言葉は、泣きそうに震えてて。
それでも必死で堪えて、ハッキリと"伝えたい"って思いが震える背中からも見てとれるから。
このままここに居ても、俺には何も出来ないし言えないから……帰ろうと思った。
だけど思うだけで身体が何故か動かない。
聞きたくないのに…
智の、翔さんへの想いを聞きたくなんかないのに、鉛の様に重い身体はそのまま動く事を拒んでるとすら思えた。
"翔さんに甘えてた"と言う智の言葉が、俺の頭の中で木霊する。
あぁ、そうか…
最後まで聞け、と身体が言ってるんだ。
聞いて、見て……諦めろと。
入る隙なんか無いんだと、思い知れ。
そう言われてる気がして。
俺はその場から動く事を諦めた。
