
愛すると言う事…
第9章 《distrust》
貪る様に、智にキスをしてる健人。
明らかに、智は抵抗を諦めていた。
両腕が垂れ下がり、表情は見えないけど完全に諦めきった智がそこに居る。
駆け寄ったのは、斗真とシゲ。
二人に押さえ付けられた健人は、ニヤリと笑った。
壁際の智は、力なくその場にズルズルと座り込む。
近付き屈み込んだ俺は、頬に手を添え。
遥かに、いつもより熱い。
翔「……智。…大丈夫か?」
智「………」
色のない、瞳が…そこにはあった。
頭を抱え込み抱き締めるけど、智の腕が俺に回される事はない。
それでも、恐らく熱のあるだろう智を抱き上げた。
翔「……すぐ戻る」
シゲたちにそう告げ、俺は本事務所へ向かった。
小さめのソファに智を寝かせ。
翔「智。……智」
智「………」
翔「悪かった。一人にして、すまない」
智「……………しょ、……ごめ…」
やっと、俺を捉えたその瞳から一粒の涙が頬を伝って零れ落ちる。
そっと、唇を重ねた。
翔「……熱があるなら、そう言え」
吐き出された智のそれは、やっぱり熱い。
『…ごめ、ん』と、声にならない声で言う。
抱き締めて、頭を撫でた。
すぐに戻るからと、着ていたジャケットを智に掛けて事務所に戻ろうとする俺の腕を、力なく掴んだ智。
涙を流し見つめてくる。
智「………」
翔「…すぐ戻るから」
智「……………まだ……………居て」
そう呟き腕を伸ばすから、俺はまたふわり抱き締めた。
熱の所為か、智はそのまま気を失った様に眠ってしまった。
前髪を撫で額にキスを一つして。
事務所に戻ると、斗真に殴られたらしい健人が床に座り込んでいた。
俺の姿を捉えたシゲと斗真。
翔「……どう言うつもりだ」
声を掛けても答える事もなく、俯いたままの健人。
殴りたい。
ボロボロにしてやりたかった。
だけど、恐らく智はそんな事を望まない。
静かに声を掛けても、顔を上げないこいつにどうすべきか考えてた。
健「………肯定、しなかったから…」
そう言って顔を上げ、やっぱりニヤリと笑う。
肯定しない?
何を?
そう思いながらもこいつが口を開くのを待ってた。
健「…………俺、聞いたんすよ。…翔さんと付き合ってんのか、って」
翔「………」
健「…否定も肯定もしなかった。さっきもそう。聞いても『お前に関係あんのか?』って」
