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愛すると言う事…

第9章 《distrust》


入ってまだ間もない健人は、知らない。

智が、言葉にする事が苦手だと言う事。
況してや、俺と付き合ってるなんて、認めるのが照れ臭いと思ってるとは、こいつに分かるはずないだろう。

従業員同士の恋愛を今でも制限していないのは、いざこざがこれまでもなかったから。

智がこの店に来る事を全員に伝えたと同時に、俺の男だと宣言した事を、智は怒った。
だから、それ以降は新人が入ったとしても俺からは宣言する事をやめていた。

ただ、涼介たちが何かしら言ってるだろうと思ってはいたけど…

斗「……お前、知ってて…こんな事…」

シ「知らねぇはずねぇだろ。…涼介たちが話してるの聞いてるはずだ」

健「だから、聞いたんすよ。…本当かどうか」

翔「……………惚れたのか」

健「………」

翔「健人。……智に。…惚れたのか?」

健「…………綺麗、っすよね?……智さん」

翔「答えになってねぇ」

健「分かんないんすよ!……男に、なんて…初めてだし…だから…」

翔「……自分の気持ち確かめる為にか。その為に、自由の効かねぇ智を押さえ付けた?」

顔を上げた健人。

俺は胸ぐらを掴んだ。
至近距離で、睨み付けその瞳を真っ直ぐ見据える。

翔「いいか。……智は、俺がお前を殴る事を、望んでねぇ。ボロボロになるまでヤってやりてぇけど。智の望んでねぇ事を、俺はしない」

健「………」

翔「お前が惚れたかどうかは知ったこっちゃねぇ。……男なら、正々堂々と向き合え。コソコソ汚ねぇ事してんじゃねぇぞ」

健「……いいんすか?…俺が、智さんに言っても」

翔「………」

健「好きだって。…俺にしてほしいって、言っても」

真っ直ぐ、見つめ返す健人の瞳は、真剣だ。

なら、俺もその真剣さに真っ直ぐ答えるよ。

翔「あぁ。……構わねぇ。好きなだけ、言えよ。お前の気が済むまで」

健人は俺を睨み付け、悔しそうな表情を浮かべてる。

言いたきゃ、好きなだけ言えばいい。
それでお前の気が済むなら俺は構わない。


智が、俺から離れて行く可能性は、ゼロだから。


暫く無言の睨み合いが続いた。

掴んだ胸ぐらを引き上げ、健人を立たせた俺は、そのまま引き摺る様に歩き、本事務所へと向かう。

斗真たちに視線を向け、店の閉店まで仕事しろと告げて、事務所を出た。


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