
愛すると言う事…
第9章 《distrust》
気付けば、全身に慣れた感触。
ゆっくり目を開けるとそこはやっぱり…
ベッドの中で。
見上げた天井も、壁も…
鼻に届く微かな匂いも…
マンションへ帰って来たんだと、気付く。
体が、怠い。
横になってるのに、怠くて重い。
ベッドの中に沈んで行くんじゃないかってくらいの怠さ。
寒気もするし、節々も痛くて、何より腰の痛みが半端ない。
起き上がろうにも、起き上がれるもんじゃなかった。
ボーッと天井を見上げ、思い出す。
翔さん…
どんな想いで、俺にキス…したんだろう…
多分。
健人への見せしめだっただろう事は、分かる。
それにしても、他の奴にされてた所を目の当たりにした翔さんは、何を想う?
こんな体じゃなかったら…
そう思えば悔しくて仕方ない。
簡単に許してしまった自分が情けなく。
翔さんの気持ちを考えたら…
込み上げてくる熱い物を必死で飲み込んだ。
物音を耳にして、翔さんが入って来た事を知る。
目を閉じ寝てるフリをしようかとも思ったけど…
翔「……起きたのか?」
智「………」
翔「どうだ?……起きられそうか?」
智「………」
ただ…
何も言わずに、真っ直ぐに見つめる俺に翔さんは何も聞かない。
必死で堪えた涙は、翔さんを視界に捉えた瞬間あっさり零れ落ちた。
翔「…泣くほど辛いか?」
優しく頬を拭うその手の温もりが、更に喉の奥を熱くした。
智「…………ごめ、…………俺…」
翔「謝るのは、俺だ。……一人にした俺が悪い」
智「…違っ………俺………諦めた…もう…無理だって、諦め…」
翔「智。……それ以上言ったら、高熱だろうとヤるぞ?」
ベッドの端に腰を下ろして、頭を撫でる翔さんの腕を掴んだ。
馬鹿みたいに、優しい…
いくら片腕が自由に動かないからって、普通なら怒り狂うだろう。
例え翔さんの言う通り俺に非がなくても。
だけど恐らく、翔さんは必死で堪えたはず。
健人は殴られた様な痕があったけど、きっとあれは翔さんじゃない気がした。
智「…………翔、さ…」
翔「ん?」
智「……ありが、と…」
翔「ふふ(笑)…何の礼(笑)?」
智「…………健人。……殴らず、我慢したんだろ?」
翔「………」
智「…だから。……あいつの前でキス…したのは、チャラにする」
そう言ってニヤッと笑えば、翔さんが声を上げて笑った。
