
愛すると言う事…
第2章 episode 2
出て行った翔さんは一時間も掛からずに戻って来た。
ソファに乱雑に置いた俺のスーツたち。
その下にはスウェット数着と、ジーンズやらTシャツやらが僅か数枚。
十分段ボールに収まる程度の俺の衣装。
少な過ぎる俺の衣服を見て、若干引いてる。
仕方ない。
物欲がないんだから。
着れりゃいいだろ。
とりあえず段ボールに詰め込んで、スーツはハンガーのまま持って行く事にした。
キッチンも、鍋とフライパンが一つずつ。
食器だって本当に僅かしかないから、衣装を入れた段ボールの隙間に収まった。
結果。
纏めた荷物は、段ボールに三つだけ。
翔「……こんな荷物の少ない引っ越し、初めてだ」
翔さんが呆れ返ってた。
電化製品やベッドにソファは、全て置いて行けと言われ。
『…ベッドはいるだろ』って言ったのに翔さんは『いらない』の一言で終わる。
じゃあ俺はどこで寝るんだ?
そんな小さな不安を抱えながらも、マンションを出た。
途中管理人に引っ越す旨を伝えて鍵を差し出した。
『え⁉引っ越す、んですか⁉』
智「…本当にすいません、急に決まったので」
『そ、そうですか』
智「…明日にでも解約とかの手続きしに来ますから」
『あー…えぇ、はい。分かり、ました』
戸惑いを隠せない管理人。
そりゃそうだ。
翔さんが車で待ってるから、長々説明してる訳にもいかず『すいません』と頭を下げてその場を後にした。
智「…もう少し余裕持ってくんないと、周りに迷惑だろ」
翔「気にすんな。このマンションの持ち主は俺の知り合いだ」
智「……は?」
翔「うちの仕入れてる業者の持ち物件だから、問題ない」
……やっぱ、この人怖ぇ…
翔さんは何でもない事みたいに話してるけど、俺のマンションの持ち主まで調べたって事、だろ?
怖ぇだろ。
助手席で、翔さんから離れる様にドアにぴったりくっ付いた。
俺には分かんない。
コレが世間的に常識なのかどうか…
だけど、多分違うと何となく思う。
翔「……何だよ」
智「………」
翔「………」
智「…怖ぇよ。…どこまで俺の事調べてんだ?」
翔「………」
智「…やっぱ翔さんとこ行くのやめ「調べてねぇよ!うちの従業員とか客が噂してたんだよ」」
え?
何でだよ。
首を傾げる俺に、翔さんはやっぱり溜め息を吐き出した。
