
愛すると言う事…
第2章 episode 2
側を通り掛かった一台のタクシー。
窓を開けて顔を出したのは、涼介さんだった。
涼「乗んなよ」
智「……いえ、すぐそこなんで」
涼「えぇ?だって翔さんちでしょ?まだ先じゃん。乗って行きなよ」
智「…大丈夫です」
頑なに拒否する俺に、涼介さんは誰も居ないからなのかあからさまに訝しげな顔をした。
俺はそれでも『…お疲れ様でした』と、タクシーの脇を通り過ぎ様としたのに、窓から手を伸ばした涼介さんは引き留める。
涼「何で乗んねぇの?先輩だろ?俺」
睨まれた。
怖くも何ともないけど。
それにしても、何だってそんなに乗せたがるんだ?
無理矢理腕を離すのは簡単だった。
けど、一応先輩で、俺は入ったばっかのド新人。
どうするべきか悩んでた。
翔「…どうした?」
タクシーのすぐ後ろ。
真っ黒な車が止まった。
見覚えのあるその車からは、予想通りの人が後部座席からゆっくりと降りてきた。
涼「翔さん」
翔「…何してる?涼介」
涼「いえ、智くんが歩いてたんで乗せてあげるって言ってたんですけど…」
翔「……手、離せ」
聞いた事もない低い声。
チラッと俺と涼介さんの腕を見て、すぐに涼介さんへ視線を戻した。
智「…涼介さん。……俺、タクシー嫌いなんで」
涼「は?タクシー嫌いって、何で?」
智「………」
翔「兎に角、智はいつも歩いて帰るって決めてるらしい。…涼介は、帰れ」
涼「え?でも、「待たせてる運転手に悪いだろ。いいから、帰れ」 」
涼介さんは不機嫌さを隠しもせず、『お疲れ様でした』とタクシーで帰って行った。
翔さんは何故か俺の腕を引いてそのままフワリ抱き締めて来る。
こんな場所で…
やめろって言おうとしたのに。
翔「…落ち着け。大丈夫だ」
抱き締められて、大丈夫だと言われて初めて気付く。
自分の身体が震えてた。
そのまま後部座席に乗せられ、翔さんのマンションまでマネージャーの運転する車で送られた。
翔「……大丈夫か?」
智「…ん」
ソファに並んで座る俺と翔さん。
ゆっくり優しく背中を撫でてくれてた。
でも、決して何も聞いてこない。
