
愛すると言う事…
第1章 episode 1
店が開くと、待ってましたと着飾った女たちがわらわらと店内に入ってくる。
指名を待つ俺たちの部屋に、黒服のフロアースタッフが名前を呼びに来た。
『智さん、指名入りました』
気怠い身体を起こして立ち上ると、やっぱり先輩たちからの強めの視線を受けた。
フロアーに入ると、客の女たちが溜め息を溢す。
俺なんかの何がいいのか…
さっぱり分かんねぇ。
それでも金を落としてくれる事には変わりないから、"智"の顔を作った。
智「…いらっしゃいませ」
座った途端にベッタリとくっついて来る、香水臭い女。
されるがままに、話を聞いて酒に付き合って時々頭を撫でてやったら、それだけで女は喜びまた次も店に来る。
単純なもんだ。
こんな生活を続けて、もう2年近く経つ。
金もこの年にしては有りすぎる程だ。
高校生の分際で、こんな生活を送ってるなんて…
ばあちゃん、怒って出て来なきゃいいけど…
いつも帰るのは明け方で。
空が白み始める頃、やっぱりダラダラと歩いて自宅マンションまでを歩いて帰る。
タクシーを使うだけの余裕はあるけど、酒の入った身体を冷ますのには歩くのが一番いい。
店を出て人気のない道を一人で歩き始めたら、道の先に真っ黒な車がポツンと停まっていた。
飲み屋街のこの通りには珍しくも何ともない風貌の車。
だけど、こんな時間に停まってるのはさすがに珍しい。
俺にはまったく興味がないから、気にする事なくその車の側を通り過ぎようとした。
『【starlight】の智…』
車の後部ドア付近まで来ると、その窓がスーッと開いて声を掛けられた。
…と言うより、名前を呼ばれた。
興味がない俺でも名前を呼ばれれば足は自然と止まる。
視線を向けると、そこには明らかに俺と同年代風の男が居た。
暗くて良く分かんないけど、多分スーツを着てる。
無言で視線を向ける俺に、その男は何も言わず俺をジーッと見つめてくる。
…負けたのは、俺。
智「……何?」
誰だ、お前。
その思いを込めた一言。
男は尚も見つめていて、言葉を発する様子がない。
用がないなら呼ぶなよ!と思いながら、気怠い足を動かそうと一歩踏み出した時。
『うちの店、来ないか?』
男はそう言って胸ポケットから名刺を差し出した。
