テキストサイズ

愛すると言う事…

第4章 episode 4


それくらい、翔さんが好きだった。
本当に、初めて人を好きになって…離れたくないと思える人に出会えたのに。

たくさんの初めての感情を教えてくれた翔さんには、伝えきれない程の感謝と思いがある。

今じゃもう、会う事も無いから叶わないけど。
最後くらい、俺からキスしてやれば良かったかな…


電車で揺られて、いつの間にか眠ってしまったらしい。

気付けば景色は田舎町だった。

荷物なんか無い。
どうせあるだけの金を"あの人たち"に渡したら、俺は居なくなるんだから。


目的の駅で電車を降りてすぐ、"あの人たち"に電話を掛けた。

『はい』

智「………駅に、居ます」

『そう。そこから銀行、見えるでしょ?通帳受け取ってもあたしじゃ下ろせないから。…下ろしたらまた電話ちょうだい』

言うだけ言って切られた。

自分勝手な奴だ。

本当に、父ちゃんの妹なのか?
そんな事まで考える程、冷酷で自分勝手な人間だった。


言われた通り、銀行で通帳の解約をして現金が入った紙袋を抱え駅に戻った。
また電話をしたら、一時間と掛からず"あの人たち"は現れて。

『あらぁ♪悪かったわねぇ♪こんな遠くまでわざわざ!ありがとう♪…じゃあ、これから帰るんでしょ?気を付けて帰るのよ?』

『…悪かったね?体に気を付けてな?』

金を受け取った二人は、さっきの電話と同一人物とは思えない程、優しい声でそう言った。

俺と言う存在が、分からなくなった。

あっと言う間に車で居なくなった二人。
俺は呆然と眺めて、宛もなく歩き始める。



どのくらい歩いただろう。

何となく…

潮の香りが鼻を掠めた。


歩き始めて、気付けば辺りは薄暗くなってて。

田舎町のこの辺は、街頭も少ないから余計に暗さが増してる気がした。

少しずつ強くなる潮の香り。


やっと見えてきた、海。



砂浜に下りると、胸いっぱいに吸い込んだ。


すっかり暗くなった浜辺を、一人で歩いて。

昼間は真っ青な海も、今じゃ真っ暗で黒く見える。

今日は月も出てないから、本当に真っ黒だ。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ