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愛すると言う事…

第5章 episode 5


時にはその日回ってくる看護師が、そうとは思えない言動の女も居た。

『櫻井さんは彼女とか居るんですかぁ?』

翔「………は?」

『素敵な方なので気になってたんですよぉ♪』

翔「………」

看護師のくせに、香水臭ぇ。
嫌悪感丸出しの俺に、気付かない看護師…いや、女。

『良かったら今度、食事でもどうですかぁ♪?』

翔「あのさぁ」

『はい♪』

翔「……臭ぇよ」

『え?』

翔「あんた。…臭ぇ。悪いけど、違う看護師呼んでくんねぇ?」

俺の言葉に突然表情を変えた女が、文句を言い始めて智の処置すら手を止めた。

『どうしました?』

外に聞こえたのか、担当の看護師が顔を出すと女は顔色を変えた。
俺は遠慮なくさっきのやり取りを報告させてもらう。

『あ、いえ、違うんです!……あの、師長』

『……兎に角、詰所に戻りなさい』

青ざめた看護師が病室を出て行こうとドアを開けて……閉まる直前、俺を睨んだ。

翔「男ほしいなら違う場所で働けよ」

目が合いそう言うと、看護師は唇を噛み締めて出て行った。
残った担当の看護師は、看護師長だったらしい。

『申し訳ありませんでした。医療の現場でこの様な事、本当に指導が足りず監督不行き届きです。大変申し訳ありません』

途中だった智の処置を素早く済ませた彼女は、深々と頭を下げた。
『俺じゃなく智に謝って下さい』と、眠る智に視線を向ける。

翔「…まぁ予想は付くと思いますけど。俺たちはホストです。今の様な事は日常茶飯事だ。…だけど、今は患者なんですよ。こいつはまださ迷ってるんです」

『そうですね、櫻井さんの仰る通りです。申し訳ありません』

翔「こいつは……嫌いなんです。香水の匂い。…それでなくても仕事でそんな女ばかりを相手にしてきました。自ら選んだ仕事だけど、こいつは好きでホストやってた訳じゃない。…こんな時くらい、普通の男に戻してやってください」

逆に頭を下げた俺に、師長は表情を引き締めて改めて智の傍に立つとそのまま床に膝を付き、手を握った。

『大野くん、本当にごめんなさい。…これからはきちんとした治療とケアをさせてもらいますね?……本当に素敵な方が傍に居て、幸せですね?早く目を開けてあげて下さい?』

話し掛けて微笑んだ後、また俺にしっかりと頭を下げて病室を出て行った。


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