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愛すると言う事…

第5章 episode 5


それからはまともな看護師ばかりが来る様になった。
ありがたい事この上ない。
たけど、たまに真面目過ぎて頭の固い看護師が来て別な意味で苛つくから、そいつが来る時は病室を出る事にした。

お世話になってるから、あんまり文句ばかり言っても迷惑掛けるだけだから。

『大野くん、後はお体拭いて終わりますね?』

翔「すいません、俺にやらせてもらってもいいですか?」

病室に来る中で比較的若い方の看護師。

温かいタオルを手に体を拭こうとしていたのを、俺がそう声を掛けると振り向き『じゃあお願い出来ますか?』と微笑んだ。

カートの上を片付け始めた看護師が『後でタオル貰いに来ますね?』と言うと、病室を出て行く。

翔「智?…体拭くぞ?」

前開きの病衣を開いたら、やっぱり細くて。

出会った頃よりも細くなってる。

一緒に暮らし始めて少しは太ったけど、それでも痩せてる方だった。

ゆっくりと、温かいタオルを体に当てて拭いていく。

翔「…また……痩せちゃったな?」

智「……………」

翔「せっかく飯もちゃんと食える様になったのに…」

智「……………」

翔「雅紀に、また飯食わせて貰いに行かないとな?」

胸も、肩も、背中も、腕も足も…

どこも細くて。
少し力を入れたら、折れてしまいそうで。

思わず抱き締めていた。

抱き締めた智の胸元から、しっかりと心音が聞こえる。

…生きてる。
生きてくれてる。

どんな形でも、誰の為でもいい。
今、生きててくれてる事が俺には泣きたくなる程、嬉しくて。


あの日、海でみつけた智は、今俺の腕の中でしっかりと脈を打ち呼吸を繰り返してくれていた。



目を覚ます事なく、あの日から智は病室で眠ったまま…一年が過ぎた。


医者には、『このまま意識が戻らないかもしれませんが、何かがきっかけで目覚める事もあります。可能性はゼロではありませんから』と、数ヵ月前に言われた。

"可能性はゼロではない"

俺はその言葉だけを信じ…
ケアをネットで調べ、数ヵ月で目を覚ました例や数年掛かった例。
ありとあらゆるケアを殆んど毎日繰り返してる。

時々、店に戻る日もあった。

でも店に顔を出したところで、やっぱり置いて来た智が気になり上の空の俺に、『帰って下さい』と斗真に言われ、シゲには『逆に邪魔です』とまで言われた。

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