
愛すると言う事…
第5章 episode 5
『がっかりしないで下さい?本当に動いたと思います。でもそれは筋肉の硬直などの可能性もありますし…無意識なのか意識的なのかは分かりませんけどね?』
『『…へぇ』』と関心する二人。
俺は前に医者から聞いてたから、初めてではなかったけど、やっぱり少しでも動けば嬉しくて。
期待と落胆の繰り返しだ。
散々騒いで賑やかした二人は、店があるからと帰って行った。
次に来る時は俺に弁当を作って来ると言い残して。
翔「…また静かだな。…智は賑やかな方がいいか?」
智「………」
翔「俺は……時と場合によるな(笑)」
頭を撫でて手を握って。
ふと…
俺は気付く。
握った手が、またピクリと動いて。
また、ゆっくり頭を撫でてみた。
やっぱりほんの僅かに指が動いた。
翔「…お前、やっぱり頭撫でられるの好きなんだろ?」
その日は帰るまでずっと、手を握りながら頭を撫で続けた。
智が。
目を開けた。
でもそれは、無意識な状態に変わりなく。
"目覚めた"訳ではなかった。
だけどそれが今後の覚醒するきっかけになるかもしれないと、医者が言う。
そんな話を幾度となく聞いた。
俺も普通の人間だ。
幾度となく聞いた医者の話に、何度も心折れそうになった事もある。
その度に止まらない涙を拭いては智の頭を撫でた。
もう…
あれから三年だ。
成人式もとっくに過ぎた智は、ベッドの上で何度一人の夜を明かしたのか。
翔「智、体拭くぞ?」
今日もまた、智の頭を撫でて囁いた。
ゆっくりと瞼を上げた智。
これにももう、慣れた。
驚きもしないし、慌てる事もなくなった。
翔「…天気、いいぞ?」
体を拭いて、腕と足にマッサージをした。
ベッドを起こす事が出来る様になってから、俺は窓の外を見られるよう位置を変えてもらって。
窓を開けて風を通した。
ここは小さな町の病院で、少し離れてはいるけど海がある。
ほんの微かに潮の香りが鼻を掠めるのは風向きの所為だろう。
翔「お?海の匂いがする」
胸いっぱいに吸い込み振り返ると、智は目を開けたままジーッと外を眺めてる様に見えた。
翔「…今度、海でも行ってみるか?」
頭を撫でてそう言った時。
智の右の瞳から一筋の涙が流れた。
さすがの俺も、これには驚いた。
翔「智?…どうした?……智?」
