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愛すると言う事…

第5章 episode 5


ゆっくり…ゆっくり…

首を俺に向けた。

翔「智!?分かるか?…智?」

ジーッと俺を見つめる智は、ゆっくりと数回瞬きをして。

また、涙を流すと……そのまま瞼を閉じた。


回診に来た医者にその事を告げると、『もしかしたら、もう脳は理解してるのかもしれませんね?』と言い、検査をする事になった。

脳波の検査とCT検査。

結果は、脳波の検査で若干の反応が出たらしい。

翔「……疲れたろ?今日はゆっくり眠った方がいいな?」

久し振りの検査で疲れてるだろうから、俺はマッサージをやめて頭を撫でるだけに留まっていた。



翌日。

病室に入ると、瞑っていた瞼を開けた智。

翔「おはよう」

何かと頭を撫でる俺。

最近じゃ、物音や人の気配で瞼を開けたりする様になった。
涙を流す事はなかったし、首も動かす事もないけど。
声を掛けると閉じた瞼が開く。
疲れてるかもしれないから、あんまり頻繁には起こさない様にしてる。

目を開けた時に話し掛ける様、なるべく控えてた。


午後。

目を開けた智のベッドを起こして窓を開けた。

今日も天気が良くて温かい。

翔「散歩出来たらいいな?」

風向きの所為か、今日も潮の香りが鼻を掠めた。
振り向くと、やっぱり智は一筋涙を流す。

嫌なんだろうか?

窓を開けて潮の香りが鼻を掠めると、必ず涙を流す事に気付いた。
…と、同時に。
もしかしたら、"あの日"を思い出してるんじゃないかと思い始めた。

翔「智…?」

涙を拭いてそっと抱き締めた。
『生きててくれてありがとう』と、"あの日"死を選んだ智にそう伝えた。

智「………ご、めん……しょ…ぉ…さ…」

掠れた、微かな声。

慌てて体を離し顔を覗けば、智は既に目を閉じてる。


濡れた智の頬を拭って、



俺は、そっと静かに口付けた。



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