テキストサイズ

愛すると言う事…

第6章 episode 6


頬に、温かい感触がして俺は目を覚ました。


目の前に、見た事もない男が居る。

智「………誰?」

俺の声に男は大きな瞳を更に見開き驚愕の表情を浮かべ、俺の名前を口にした。

見た事もない男なのに、何で俺の名前を知ってる?


突然、慌ただしくなった部屋の中で白衣を着た連中が触ったり眺めたり機械を当てたり…

名前を聞かれて答えると、次々に質問が飛んできてイライラした。
見た事ない部屋は、多分病院。
消毒の匂いがするから。

見渡してみてもばあちゃんの姿がない。

『ばあちゃんは?』って聞いてんのに、誰も答えてくれなかった。
医者らしき男が『今日はもう遅いので検査は明日にしましょう』と言って出て行く。
看護師たちもぞろぞろと出て行くと、残ったのはさっき最初に見た大きな目をした男前。

智「…ねぇ。…あんた、誰だよ」

男は今にも泣きそうな顔で俺を見つめてくる。
必死で堪えてるらしいその大きな瞳には、涙が溜まってて。

ゆっくり瞬きした瞬間にその頬を伝う。

何だか分かんないけど、胸が苦しくなった。
初めて会ったのに。
見た事もない男が、目の前で涙を流してる。

翔「……智」

呼ばれたその声が、どうしてか俺の胸をざわつかせた。
さっきとは何かが違う胸の苦しさ。

温かい様な、安心する様な、優しい声に思わず胸の辺りを掴んで握り締める。


ベッドの端に座った男が、俺の頭を撫でてまた名前を呼んだ。

智「…だ、れ…だよ。……お前。………何か、気持ち悪ぃ、よ」

悲しくもないのに、俺の目から勝手に涙が流れた。
頭を撫でて、ゆっくりそっと抱き締められたら。
やっぱり今まで感じた事のない…何とも言い様の無い感情が押し寄せる。

俺は戸惑いながらも、何だか懐かしい様な感覚に軽くパニックを起こしそうになった。

翔「……智?…今日はもう遅いから。明日、ちゃんと説明する。…今日はもう寝ろ」

智「……ばあちゃん…」

翔「そればっかだな?…それも、ちゃんと明日説明するから」

智「…///」

頭を撫でて顔を覗き込まれたら、何だか物凄い恥ずかしくなった。

男は起き上がってた俺を寝かせながら『ちなみに、翔だ。…オジサンじゃねぇ』って、少しだけ不貞腐れ気味に呟いた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ