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愛すると言う事…

第6章 episode 6


『…見てきても……いい?』と言われて、頷いた俺を確認すると玄関へ向かった。

全部の部屋やトイレ、風呂場を見て回り…戻って来るまで10分は掛かってた。

智「……おかしい。…こんな部屋、二人だけで居たなんて」

翔「…智が来るまで俺一人だったけどな」

智「…………あり得ない」

大きなベランダの窓の傍に立つと、ジーッと外を眺めてる智。

煙草を咥えたままその背中を見つめてた。

こめかみを押さえる姿を見て、『少し休んだ方がいい』と声を掛けると、振り返りソファに座った。


翔「コーヒーは?」

智「………飲めるの?」

翔「あー…まぁいつも飲んでたな。煙草吸いながら」

智「…煙草も?」

15歳の智には信じられないのかもしれない。

煙草は、吸わないならその方がいい。
『飲んでみるか?』と立ち上がると、何故かキッチンまでついてくる。
ぐるりとキッチンを見渡したら、またこめかみを押さえる智。

翔「大丈夫か?」

智「………何か、過るんだ。…けど、何かは分かんない」

翔「そうか。脳が記憶の片隅にある風景を思い出そうとしてんのかもな?」

智「………かな?」

全部を思い出すのも、そう遠くはないのかもしれないと思った。

今の智も新鮮でいいけど、やっぱり一緒に過ごした時間を忘れたままなのは淋しい気がするから。

出来れば、思い出してほしい。

俺を好きだと、口にはしなくてもそう思ってくれてた智に戻ってくれたら、俺は他に何も望まない。


夕方、腹が減ったと言う智を連れて雅紀の店に向かった。
本当なら歩いて行くんだけど、退院したばっかの智は疲れてるだろうと、車で行く事にした。


店に着いて二階の個室に入ると、やっぱり頭痛を訴えた。
和が心配してたけど、大丈夫だと言う智の傍にずっと居座ってた。

雅「忙しいんですけど!」

ビールや料理を運んでくる度に雅紀が和を引き摺り連れていく。
けど、またすぐに戻ってきては連れ戻される…を何度も繰り返してた。

クスッと小さく笑った智が居て。

俺はこのままの智でもいいか、なんてついさっき思ってた事も忘れる程だった。

智「…ビール、美味い」


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