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じゃん・けん・ぽん!!

第4章 おにぎり大戦

「か、会長――ですか」
 そう、この美女は生徒会長だ。
「名前は確か――」
「池田裕子」
 と痩身の美女は答えた。
「す、すみません」
 と健人は謝った。知らなかったとはいえ、学校の先輩に当たる人――しかも生徒会長――にぞんざいな口を効いてしまったのは失礼だったかもしれないと思ったからだ。制服を着ていれば分かったのだろうが、今の裕子は普段着に身を包んでいる。
 しかし生徒会長――池田裕子――は、健人の口の効き方などは気にしていないようだ。
「それより、これ、あなたも買いたかったんでしょ」
 裕子は左手に持ったおにぎりを、健人の鼻の前に突き出して見せた。健人は押され気味に顔を引く。
「ええ、まあ」
 と健人は曖昧な返事をする。裕子は快活で、なおかつ美人だ。健人は心臓がうずくのを感じる。こんな相手と話す機会を思わずに得たことへ戸惑い、同時に緊張を感じていた。さっき背筋を伸ばしたばかりだというのに、また背中が丸まっていることに気づく。
「それじゃあさ――」

 じゃんけんしようよ――と裕子は言った。

「はあ?­」
 突飛な言葉に、一瞬理解が遅れる。
「じゃんけん、ですか」
「そう。じゃんけんなら公平でしょ」
 公平だと健人も思う。しかし、順番を守る方が公平といえば公平と言える気もする。
「いいんですか。先にそれを手に取ったのは会長ですよ」
「私はいいよ。兄に頼まれて買いに来ただけで、私はお腹が空いているわけではないし、あなたは制服を来ているところを見ると学校帰りでしょ。あなたはお腹すいてそうだし」
「それなら――」
 健人は拳を握りしめた。それを確認したのか、裕子の方でも拳を握りしめた。
 近所の古びた店で、同じ学校の綺麗な上級生とおにぎりを巡ってじゃんけんをする。奇妙な巡り合わせに、滑稽ながらも和やかな雰囲気を健人は感じた。
「じゃん、けん――」
 裕子はそう言って、握った拳を後ろへ引いた。それに合わせて、健人も拳を引く。
 じゃんけんとはいえ、戦いであることに変わりはない。裕子の表情は真剣だった。その鋭い眼差しと引き締まった唇が、より一層――。
 美しかった。
 それを見た健人はさらに緊張を覚え、そして筋肉がさらに硬直する。
「ぽん!」
 と裕子が言った。

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