じゃん・けん・ぽん!!
第1章 困った下駄箱
健人も決して剛腕というわけではないが、それでも男である自分の力を持ってもこれだけの力が必要なのだとしたら、華奢なこの女の子の力では、夕方まで頑張っても開かなかっただろう。
開いたよと健人が言うと、ありがとうございますと女の子は控えめに言った。
「この扉、きつくていつも困っていたんです。今までは何とか開け閉めできていたんですが、今朝はとうとう開かなくなってしまって――」
本当にありがとうございました――と女の子はこくりと頭をさげると、そそくさとした足取りで駆け去ってしまった。
まるで後輩みたいだな――と健人は思う。確かに体格に差はあるが、学年も組も同じなのだから、もっと堂々としていても良さそうなものだ。とはいえ、控え目な人というのもいる。きっとそういう類なのだろう。嫌いではないが、仲良くなれそうにはないな、という気がした。健人は、もう少し人との距離の近い付き合いを好むからだ。
そんなことを考えていると、ついに鐘が鳴った。始業の時間だ。それで急いでいたことを思い出した。
健人は教室に向けて駆け出した。
――遅刻したら物笑いの種だ。
そう思いながら。
普通の生徒なら別に構わないのだが、よりにもよって、健人は級長に選ばれてしまったのだ。級長が遅刻をしたとなると、こぞってからかってくるだろう。悪意がないのは分かるのだが、面倒くさいのでそれだけは避けたかった。
だから健人は走った。
中学時代に陸上で鍛えた足に力を込めて、廊下を一直線に走る。ふと――。
視界の隅に妙なものが映った。
駆け足を止めることなく、ちらりとそちらへ目を向ける。
視線の先には、上級生がいた。
背の高い、すらりとした美人だ。狐色の髪をさらりと靡かせたその美人は、下駄箱に両手をつけ、まるで家守が壁にへばりつくような恰好をしていた。下駄箱の位置からして、きっと三年生だろう。しかし後ろ姿しか見えないから誰なのかは分からない。
その格好だけでも充分に妙なのだが、さらに妙だと思ったのは、そんな美人の後ろに、岩のような体格の男が立っていたことだった。その男も服装から生徒だということはわかる。でも、家守のような美人の後ろに立ち尽くしている理由がわからない。
――何してんだろう。
と、ちょっと気にしながらも、健人は教室を目指して足を速めた。
開いたよと健人が言うと、ありがとうございますと女の子は控えめに言った。
「この扉、きつくていつも困っていたんです。今までは何とか開け閉めできていたんですが、今朝はとうとう開かなくなってしまって――」
本当にありがとうございました――と女の子はこくりと頭をさげると、そそくさとした足取りで駆け去ってしまった。
まるで後輩みたいだな――と健人は思う。確かに体格に差はあるが、学年も組も同じなのだから、もっと堂々としていても良さそうなものだ。とはいえ、控え目な人というのもいる。きっとそういう類なのだろう。嫌いではないが、仲良くなれそうにはないな、という気がした。健人は、もう少し人との距離の近い付き合いを好むからだ。
そんなことを考えていると、ついに鐘が鳴った。始業の時間だ。それで急いでいたことを思い出した。
健人は教室に向けて駆け出した。
――遅刻したら物笑いの種だ。
そう思いながら。
普通の生徒なら別に構わないのだが、よりにもよって、健人は級長に選ばれてしまったのだ。級長が遅刻をしたとなると、こぞってからかってくるだろう。悪意がないのは分かるのだが、面倒くさいのでそれだけは避けたかった。
だから健人は走った。
中学時代に陸上で鍛えた足に力を込めて、廊下を一直線に走る。ふと――。
視界の隅に妙なものが映った。
駆け足を止めることなく、ちらりとそちらへ目を向ける。
視線の先には、上級生がいた。
背の高い、すらりとした美人だ。狐色の髪をさらりと靡かせたその美人は、下駄箱に両手をつけ、まるで家守が壁にへばりつくような恰好をしていた。下駄箱の位置からして、きっと三年生だろう。しかし後ろ姿しか見えないから誰なのかは分からない。
その格好だけでも充分に妙なのだが、さらに妙だと思ったのは、そんな美人の後ろに、岩のような体格の男が立っていたことだった。その男も服装から生徒だということはわかる。でも、家守のような美人の後ろに立ち尽くしている理由がわからない。
――何してんだろう。
と、ちょっと気にしながらも、健人は教室を目指して足を速めた。