じゃん・けん・ぽん!!
第3章 面倒くさい頼みごと
ふと、晃仁が視線を逸らせた。
健人も、つられてそちらへ目をやる。
晃仁の視線の先には――。
女の子がいた。
度の強い眼鏡。肩のあたりで切り揃えた重たげな髪。そして小さな体。
「ああ」
ついさっき、下駄箱で扉を開けるのに苦労していた女の子だ。名前は――知らない。いや、入学初日に、ひと通り全員自己紹介をしたから名乗ってはいる。だから聞いてはいるのだろう。だから知らないというよりは、覚えていないと言うべきなのかもしれない。
「あの」
と影の薄い女の子はか細い声を出した。
「なに」
健人は椅子に座ったまま体を捻って、女の子の地味な顔を見る。地味は地味だが、儚げな雰囲気がして、それがなんとなく、健人の心をくすぐった。
「ちょっと、お話が」
と女の子は相変わらずの小さい声でいう。胸の前で教科書を両手で抱きしめているから、息が詰まって余計と声も出しにくいのかもしれない。
「ああ、じゃあ僕は席に戻るよ」
晃仁が何かを察したらしく、そう言って健人に背中を向けた。向けざまに――。
「ひのえんま」
と晃仁は言った。はっきりと聞こえたわけではないが、そう言ったように健人には聞こえた。言葉の意味は――わからない。
今なんて言ったんだ――と健人は晃仁に問いかけようと思ったが、それより先に、
「実は下駄箱のことなんですけど」
と女の子に話しかけられたものだから、結局晃仁への質問は遮られる形になってしまった。
「下駄箱って」
仕方なく、健人はさっきの言葉の意味の追求を諦めて、女の子の話に意識を移した。
「下駄箱が、どうしたの」
「あの、健人くんって、級長ですよね。たしか」
「そうだけど」
「だったら、お願いがあるんです。下駄箱を、買い換えるように学校に提案してもらえませんか」
「買い換えるって」
「あの下駄箱、ほかの人に割り当てられている部分は知りませんが、私の靴入れの部分はもう扉が駄目になっていて」
健人も、つられてそちらへ目をやる。
晃仁の視線の先には――。
女の子がいた。
度の強い眼鏡。肩のあたりで切り揃えた重たげな髪。そして小さな体。
「ああ」
ついさっき、下駄箱で扉を開けるのに苦労していた女の子だ。名前は――知らない。いや、入学初日に、ひと通り全員自己紹介をしたから名乗ってはいる。だから聞いてはいるのだろう。だから知らないというよりは、覚えていないと言うべきなのかもしれない。
「あの」
と影の薄い女の子はか細い声を出した。
「なに」
健人は椅子に座ったまま体を捻って、女の子の地味な顔を見る。地味は地味だが、儚げな雰囲気がして、それがなんとなく、健人の心をくすぐった。
「ちょっと、お話が」
と女の子は相変わらずの小さい声でいう。胸の前で教科書を両手で抱きしめているから、息が詰まって余計と声も出しにくいのかもしれない。
「ああ、じゃあ僕は席に戻るよ」
晃仁が何かを察したらしく、そう言って健人に背中を向けた。向けざまに――。
「ひのえんま」
と晃仁は言った。はっきりと聞こえたわけではないが、そう言ったように健人には聞こえた。言葉の意味は――わからない。
今なんて言ったんだ――と健人は晃仁に問いかけようと思ったが、それより先に、
「実は下駄箱のことなんですけど」
と女の子に話しかけられたものだから、結局晃仁への質問は遮られる形になってしまった。
「下駄箱って」
仕方なく、健人はさっきの言葉の意味の追求を諦めて、女の子の話に意識を移した。
「下駄箱が、どうしたの」
「あの、健人くんって、級長ですよね。たしか」
「そうだけど」
「だったら、お願いがあるんです。下駄箱を、買い換えるように学校に提案してもらえませんか」
「買い換えるって」
「あの下駄箱、ほかの人に割り当てられている部分は知りませんが、私の靴入れの部分はもう扉が駄目になっていて」