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え?元アイドルのお従兄ちゃんがわたしのクリフェラ係ですか!?

第15章 氷解する心

「たぶんそれを、お従兄ちゃんは聞いてたんだと思う。自分のことはクリフェラ係にしてくれないのか、って訊かれた」
「……それで」
「わたしはいやだ、って言った。そうしたらお従兄ちゃんは、お婿さんにならなってもいい? って言ったの。わたしはいいよって答えた。……わたしにとっては、クリフェラ係のほうがずっと具体的に、幸せな男女関係の象徴だったんだ」

 夕謡は黙って、前で組んだ自らの両手を見つめた。わたしは彼が答えをだすのをじっと待った。

「……詩菜、ごめん」
「夕謡、謝らないで。悪いのはわたし……」
「詩菜がもう謝らないなら、僕もやめるよ」
「……!」

 夕謡が顔を上げてわたしを見つめた。

「僕は傲慢だったのかもしれない。僕の想いのほうが、詩菜が僕を想うよりずっと深いと思ってた。それで勝手に不安になって、詩菜に心からぶつかることができなかった。詩菜が僕に抱かれたがっているのを知りながら、壊してしまうだなんて……逃げてたんだ」
「夕謡……」
「詩菜の想いを信じてなかった。本当に、馬鹿だよ。僕は……」
「そんなことない、夕謡」

 わたしは夕謡の両手に自分の両手を載せた。握りしめるように心を込めて、そして、言った。

「ね、夕謡。もう一度、わたしのクリフェラ係になってください」
「詩菜」
「そして今度は……ちゃんと、恋人にもなってほしい」
「しい……な」

 わたしの手に熱いものが降りかかる。夕謡の、涙だった。

「詩菜、ありがとう……」
「ううん夕謡。わたしこそ……ありがとう」

 そのままわたしたちは、永い間手を重ねたままでいた。
 抱き合わなくても、くちづけなくても――手を重ねるだけで伝わる想いがある。そのことを知ったのだった。

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