
触って、七瀬。ー青い冬ー
第13章 愛の嫉妬
理想とか、タイプとか好みとか、人格とか、そういうもの全部、関係なくなるんです。
好きな人を見ると、ただ、
幸せなんです。
僕は、その気持ちを知らなかった。
誰かを見るだけで、笑顔になれたり、
幸せに感じること」
そんなことを言いながら、夕紀の声はだんだん小さくなった。
「…だから、知れて本当に良かったんです。人を好きになるってどんなことなのか。
でも、最近はずっと、好き、とか、
そういうのがもう、わからないんです。
僕は…」
腕の中の夕紀の息が震えた。
「僕は、男だから」
「やっぱり、おかしい、のかなぁとか、
余計なこと、考えちゃって」
「それに、恋なんて叶うはずもないから。
好きでも、嫌いになるしかないんです」
「諦めるとか、そんなおこがましい言い方したくないんですけど。
恋を…、初めて知って、幸せな気持ちを、
丸め込んで、ゴミ箱に捨てなきゃいけないのが、す…ごく、苦しい…」
夕紀は肩を震わせた。
「だから、…」
僕は、逃げた
「僕、本当に翔太さんが好きで」
好きだと思っていれば、心の底にいる誰かを忘れられた
「翔太さんといると安心するし」
翔太さんは僕を好きだとは言わないけど、
好きじゃないと突き放したりもしない。
翔太さんは僕を、男でも女でもない、人として、体だけの関係で気持ちよく包んでくれた。
白も黒もない、その心地よくて、都合のいい状態に浸っていたかった。
翔太さんの優しさに甘えて、
目をつぶっていたかった。
恋愛ごっこをしていたかった。
「僕、本当は逃げてるだけなんです」
「僕は…、本当は」
俺は、夕紀の濡れた髪に触れた。
「俺も愛してるよ」
その足と手を、縛り付けるように。
「愛してる」
その言葉で縛り付けておかないと、
君は逃げてしまう
俺は、もう、誰かにあげたくない
特に、あいつにだけは
「翔太さん」
夕紀の声は明るかった。
「もう、終わりにしませんか」
