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本気になんかならない

第19章 中秋

少し深い呼吸を繰りかえしたあと
北里は口を開く。

「また、会えるかな?」

え?北里、俺に会いたい?
その涙は、俺との別れを悲しんでくれてるから?

一瞬俺は、また胸を踊らせたんだ。
性懲りもなく…。

「会えるよ。
また、聴きに来る」

甘い媚薬のような北里のテナー、
無性に聴きたくなるときがあるから。

だけど、ふっと頭を横に振った北里は
俺の言葉を掻き消した。

「私、採用試験に受かったの。
だから卒業したら、
ここにはなかなか来られないかも」

”会えるかな?”って言っておいて
そのセリフ?

「それは、おめでとう。
さすが北里だね」

立ちあがり俺は、賛辞を述べた。

今度こそ本当にドアへと進む。

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