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本気になんかならない

第36章 夜は恋蛍

もっちーに促されてステージにあがる、その人。

楽器を支える力強い腕には緊張が見えたけど、柔らかそうな髪、深いまなざし、ほどよい厚みの唇。

その全身を見た瞬間に、私の心臓は射抜かれたように震えあがった。

そして目を閉じて、奏でだすのは、ジャズバイオリン。

弾む5拍子に、寂しげな音色。
今までおしゃべりに夢中だった観客さえ、その雰囲気にのまれてステージに顔を向ける。

バックに控えていたドラマーが、彼にあわせてリズムを刻みだした。
彼の力量が認められたんだわ…。

音楽に言葉は要らないって、本当よね。
と思いながらも、高らかに鳴りたくる心臓。

ドキンドキンドキン…。

この感情を私は知ってる。

何年ぶりかの、身体奥からの信号。

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