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Memory of Night

第8章 花火


(……でも、拒めない)


 晃の言葉にも、行動にも。

 従ってしまう。

 晃のそばにいる時の自分は変なのだ。

 いつもの自分をたもてなくなる。

 余裕さえなくて、晃に見つめられるだけで、心の奥の自分でも知らない部分を暴かれてしまいそうになる。

 それを隠すのに、いつもいつも必死だった。

 晃の、自分に向けられた真剣な瞳を思い出す。そして、触れられる感触も。

 それはまるで甘美な呪縛のようで、いつまでも肌に残って宵を戸惑わせる。

 もしもう一度晃に抱かれたら……溢れ出してしまう。

 宵は月を見上げて、その名前をつぶやいた。

 胸の奥をぎゅーっと締め付けられるみたいに、切なさがこみあげてくる。

 夜空を仰いだままグッと目をつぶると、夜風がゆかたの袖を揺らした。

 もう振り払おうとすることすら億劫になるくらい。瞼の奥に浮かんでくるのは晃のことばかりだった。

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