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Memory of Night

第8章 花火


(懐かしいな。あの時みたいだ)


 川にたたずみ月を見上げている所作は、いつもの言動や行動からは想像もつかないくらいに儚げに見える。

 思わず入学式に初めて見た宵の姿と重ねてしまい、晃は苦笑した。

 でもその姿は、人形には見えない。


(あんな表情もできるんだな……)


 心の内でつぶやいて、口もとの笑みを深めた。

 いつもの、晃を睨んでくる気の強そうな瞳は、今は切なげに細められている。

 あんなしおらしい顔、今まで見たことなかった。

 その視線の先には、月でも川でも蛍でもなく、きっと別の何かが映し出されているのだろう。


(一体何を考えているんだろ)


 あんな顔をして、宵は誰のことを想っているのだろう。

 入院中の母親のことだろうか。

 そう思うと、胸の中に苦い物が込みあげてくる気がした。


(宵が欲しい)


 自然と、心に浮かび上がってきた言葉に晃ははっとした。

 宵を手に入れたい。その気持ちが、前とは違うことに気付いたからだ。

 中性的な、綺麗な容姿が好きだった。飾って眺めていたかった。

 それだけで満足だし、それ意外には興味はなかったのに。

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