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Memory of Night

第11章 罠


 良かった。心の底から安堵して、胸をなで下ろしている自分がいる。


「その気持ちを、宵にも伝えてあげてください。……きっと喜びます。長々と失礼いたしました。手術の成功を祈っています」


 礼儀正しく頭を下げ、志穂の体をそっと横にする。


「ありがとう」


 返ってきた礼に笑みを浮かべて応えた時だった。

 病室のドアの向こう、ノックの音が響いた。

 ドアが開き、現れたのは白衣姿の若い男。


「矢部先生」


 志穂がつぶやいた。

 矢部。その名前は宵から聞いていた。志穂の主治医だ。

 男は晃の姿に、一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに穏やかに笑って会釈した。

 それから真剣な面もちで志穂に向き直る。


「さあ、手術の時間だ」

「はい」


 晃は男の後ろに視線をやった。違和感を覚えた。矢部の傍らにいるはずの存在が、見当たらない。


「宵は……?」


 口にすると、主治医の男も不審げな顔をした。


「今日は見ていない。てっきりここにいるものだとばかり……」

「いえ、ここにも来てないわ」


 三人で顔を見合わせる。

 宵がここに来ないはずはない。今日の昼間学校で見かけているし、例え体調を崩していたとしても、志穂のもとへは顔を出すはずだ。


「俺、探してきます!」


 胸騒ぎを覚えていた。

 そう言うやいなや、晃は病室を飛び出した。

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