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Memory of Night

第5章 玩具


「ごめんね、遅くなっちゃって……。体調はどう? 家まで送ってくけど、私の車まで歩ける?」


 倉木は、まだ三十代前半の若い女性教員だった。


(どうせ晃とはもう終わりだもんな……)


 宵は倉木に、舐めるような視線を向けた。

 視線は外さず、口元に、小さな微笑を浮かべる。


「ねえ、センセ。俺、金が欲しいんだ。センセーの相手するから、金くれない?」

「え……?」


 取り繕った甘ったるい言葉とは裏腹に、心はひどく冷めていた。

 戸惑う倉木に有無を言わせず、宵は倉木の手を掴んで自分の方へと引き寄せる。


「あ……」


 抵抗する隙を与えず、唇をふさぐ。

 最初は引きぎみだった倉木の体は、すぐに宵に快感を求めるようになった。


(――誰でもいい。金持ってるヤツだったら)


 ふいに浮かんだ晃の顔を振り払うように、宵は心の中でつぶやいた。

 ひどく、投げやりな気分だった。

 薄暗い保健室の中、二人の息遣いだけが雨音に混じってやけに大きく響いていた。

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