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Kissシリーズ

第9章 ヘタレとのキス

「やったけど…。お前の字、クセ字で見づらくて…」

「よくもそんな口がきけたもんねぇ」

頬をつねって引っ張った。

「うぎゅぅ」

「ろくに問題が解けていない答案用紙と格闘するのがお好きなら、最初っからおっしゃれば良いのに」

「そっそふいふワケひゃなひ」
(そういうワケじゃない)

「生意気な口を…! 高校入試の時だって、さんざん勉強見てあげたのに」

同級生に勉強を教えるのは結構苦労する。

なのにコイツときたら…!

さらにうにーと伸ばす。おお、よく伸びる。

モチみたいにすべすべの肌。…ムカツク。
背も伸びて、黙っていればカッコ良いのに…。

この優柔不断ぶりには腹が立つ。

「こんな問題も解けないクセに!」

もう片方の頬も伸ばす。

「いっいらひっ! ひらひっ!」
(いっいたいっ! いたいっ!)

…でも、いつまでもこうすることは出来ない。

いずれは…終わるんだから。

私はパッと手を離した。

「う~、痛かった」

痛そうに頬をさする。眼に涙まで浮かべて…。

「…答えは、コレ」

私は用紙に書かれている文字を指さした。

「えっ?」

慌てて用紙に視線を戻す。

「早く書いて! いい加減、帰りたいのよ!」

「わっ分かった!」

そして追試は終わった。

「やっと終わったゴメン。待たせて」

そう言って顔を上げたアイツの顔を掴んで、無理やり唇を合わせた。

「…へっ?」

こんな時までマヌケ面…。

「ご苦労様! じゃっ、先帰ってて! 私は職員室行くから!」

用紙を抜いて、私は教室を飛び出した。

一瞬のキス。でも…確かに触れ合った唇。

泣きそうなのをガマンして、教師に追試の用紙を渡した。

そして気付いた。

…カバン、教室だ。

きっとアイツは帰っているだろう。

ど~せ、ぼ~としながら帰っただろう。

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