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俺の男に手を出すな

第1章 お不動さま

【智side】

目を閉じて真言を唱えながら、お不動様を心に思い描く。

憤怒の形相。
唇から上下に飛び出した牙。
全身に紅蓮の炎をまとって。
右手に垂直に持った剣の、下から上に炎が走る。
左手に持つ羂索は邪な欲を縛り、巻き付いたら決して逃げられない。
踏みしめた足元から、ブスブスと煙がくすぶる。

オイラの体が真言に守られて熱くなってくる。
まぶたを閉じていても、その裏側で、手で結んだ印が光り輝くのを感じた。
額の生え際、真ん中がスースーする。

日本の仏さまは美しい。
こんなに厳しいお姿なのに、いつも優しい。

9回目の真言を唱え終わって目を開けると、部屋はすっかりキレイになっていた。
改めて手を合わせて心の中でお礼を申し上げると、お不動様の気配も消える。





「…翔?」

額の汗を手で拭ってやって、そっと呼びかけた。
寝息が穏やかになってる。

オイラも寝よ。

腕を布団に入れてやって、チ ュ ッ、ってデコに口 づ けた。
隣に横たわると、何秒もしないうちに、ストンと眠りに落ちた。





翌日。
とある女芸人さんが5人の楽屋にやって来た。

ドアのところで対応した松本が、しきりにお礼を言っているのが聞こえる。
なんか、差し入れをいただいてるらしい。
ゲストさんはいない収録の筈なのに、突然何だろ?

オイラも挨拶した方が良いのかな、と思って、座ったまま背中だけひょいと反らしてドアの向こうに目をやった。

途端、相手の顔が強張る。

ああ、この人だったんだ。
ゆうべは、どうも。

オイラは彼女の目を見つめて、片方の口角だけを意識してゆっくりと持ち上げた。

儀礼上、楽屋の中に入るよう勧める松本に対し、彼女は大げさに辞退して去って行った。





オイラの男に手を出すアンタが悪い。

嵐を舐 めんなよ。

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