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俺の男に手を出すな

第2章 大天使ガブリエル

【智side】


ベランダに来客があった。
ちなみにオイラ達が暮らす部屋はマンションの上の方だから、普通の人間がベランダに来られるような場所ではない。

お客さんは、まだ若い女性で、ピンクのドレスを着て感じの良い笑みを浮かべていた。

その光沢のあるドレスを見て、結婚式のお色直しで着るようなやつだな、とすぐに思った。
彼女は手にブーケを持っていたから。

ベランダの向こうには青く澄んだ秋の空が広がっていて、霞がかった雲が遠くにぼんやり広がっている。

嫌な感じは全く受けないけど、知らない人だなぁ、とオイラはちょっと警戒する。

ベランダに通じる掃き出し窓の左側に彼女が立っていたから、なんとなく右側の窓を開けて、そっちから顔だけ出して声を掛けてみた。

「あのう、死んだ人だよね?
誰ですか?俺の知ってる人?」

彼女はにっこり笑うと、首を横に振って、寝室の方を指さす。
翔君の知り合いか。
うーん、どうしたもんかな…。

あまり力は強くないようだ。
もしかして、最後の挨拶に来たのかもしれない。
翔君の夢には入れなかったのか。

「翔君の友達?」

彼女は、ちょっと困った顔をして曖昧に首を振る。

「悪いけど、俺も翔君も、何もできないよ?」

感じの良い人だから、申し訳ないとは思うけど。
オイラ、そういう仕事の人じゃないし。
翔君とどういう繋がりがある人かわからないから、簡単に引き受けることは出来ない。

彼女は、悲しそうな顔をして、オイラをじっと見つめてる。
何度もお辞儀をしてみせるから、手に持ったブーケが傷むのではないかと変なところが気になった。

大きな白い百合を中心に、白と淡い紫、ブルーで作られたブーケ。

「結婚式は教会でしたの?」

彼女は頷く。

「神様や天使を信じてる人?」

更に大きく頷いた。

仕方ない。
オイラは両手の指を組み合わせて、助けてくれそうな存在を呼んでみる。

「大天使ガブリエル、今すぐここへ
力を貸してくださり感謝します」

途端、青空だった背景が、夕焼け色に染まる。
黄色、ゴールド、オレンジ、朱色のグラデーションが、ベランダの手すり越しに見えた。

目の前の彼女がびっくりしたような顔をしてる。

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