
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第29章 心が悲鳴をあげても
夜中、咲夜がフッと目を覚ますとさっき一緒に
眠りについたばかりのはずの絢音の姿が
部屋のどこにも見当たらなかった。
しばらく待ってもなかなか戻らぬ絢音に言い知れぬ
胸騒ぎを覚え咲夜は絢音を探そうと部屋から出た。
絢音は洗面所にいた。
まるで何かに取り憑かれでもしたかの
ような必死の形相で手を洗っている。
絢音は小声で何か呟き続けているが、
咲夜には理解不能な広東語だったので
ますます咲夜は絢音の様子に戸惑いを
見せる。
「ねぇ、あや。それくらいでいいでしょ?
そろそろ部屋へ戻ろう」
『だめ――だって、この血、なかなか
落ちないんだもの……』
「何言ってっかさっぱりわかんないよ。
とにかく部屋に戻ろう」
と、絢音の肩を引き寄せた。
しかし絢音は、咲夜の手を邪険に
振り払って、手洗いを続行する。
「いい加減にしなよ。帰ろ!」
『イヤ! 咲夜にはこの血が見えないの?!
私の事は放っといてよ』
そこへ「こんな時間に何騒いでるんだぁ??」と、
B棟の寮監・日向登場。
