
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第32章 動き出す歯車
㈱各務は緑豊かな嵯峨野に建つ
瀟洒な**階建てビル。
その威風堂々とした風格のある外観に
圧倒されつつ私は玄関ホールへと足を踏み入れた。
1階の総合受付で自分の名前を告げ、
3時から社長さんと約束がある旨を告げると
エレベーターで最上階までどうぞと指示され、
向かった**階で待つこと数分……
昨日電話で話した秘書の高田さんがやって来た。
「お待たせ致しました、高田と申します」
「和泉です」
「社長がお待ちです、こちらへどうぞ」
フロアー最奥の部屋のドアを高田さんがノックした。
「和泉様をお連れ致しました」
「どうぞ」
目線の先、各務広嗣社長が重厚な執務机に
座っていた。
「やぁ、久しぶりだね、どうぞ」
「失礼致します」
2人で応接セットのソファーへ移動。
向かい合わせに座ると高田さんがお茶を
出してから、出て行った。
「驚いたよ。キミから連絡が来るなんてね」
「りゅ ―― 各務さんからお預かりしていた
部屋のカギをお返しに参りました」
私はテーブルへマンションのカードキーを置いた。
「出て行くのか?」
「はい」
「そうか」
「……昨夜の新聞を見ました」
「あぁ、あのバカが両親へ神宮寺愛奈さんとの
婚約は解消したいなんていきなりカムアウトした
もんだから、ショックのあまりお袋が卒倒して。
親父は怒り狂って竜二を殴りつけ、臨時役員会の
満場一致で懲戒解雇処分になった。その後
すぐあいつは実家に軟禁されたよ」
「そう、ですか……」
私はひざ上に置いた手を握り直し、
ゆっくり息をついて切り出した。
