
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第32章 動き出す歯車
各務本社を後にしてすぐ東京へ帰った私は
途中まで引っ越しの荷造りを手伝ってくれた
利沙を見送って、ベランダへ出た。
都会の街は周りのビルや家々から漏れる電気で
結構深夜まで明るい。
それに加えこの学生会館の建物は高台に
建っているので、かなり遠くまで見渡す事が
出来た。
見える訳はないのに ――
思わずマンションや学校の方向へ目を向けた。
2度と会わないって決めたのは自分。
だから今は、まだ同じこの国に一緒にいられるって
事だけで良しとしよう。
これから私は、もっと強くならなきゃダメなんだ。
もし、何年か後、
彼と偶然何処かで再会しても、笑顔で話しが出来る
ように……。
私は強くなる。
―― コン コン
「は~い?」
開いたドアから顔を見せたのは、
向かいに住むアフリカ系アメリカンのジェフ。
「ハ~イあやちゃん、おじゃまですかぁ?」
「ううん、そんな事ないよー、どうぞ入って」
と、言うと「では、おじゃまします~」と
ジェフを筆頭にこの港南寮の住人さん達が
ゾロゾロと入って来た。
皆、手に酒と肴、それにスナック菓子を
持っている。
どうやらこれから、夜通しの飲み会になりそうだ。
