
オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第32章 動き出す歯車
帰郷すると決めた4月1日(金)まで
あと18日(2週間と5日)……
町で偶然竜二さんと鉢合わせる事のないよう
細心の注意を払う日々は想像以上に疲れる。
でも、やる事があるってだけで余計な事は考えずに
済むので、毎夜、時間通りに床へ就くとそのまま
”バタンキュー”で朝までぐっすりだ。
国枝先生から紹介された自己啓発セミナーに
参加したり ――
4月からの自炊生活に備えて珠姫さんに
お手軽手料理を教わったり、と、
言葉通り目まぐるしい日々を過ごしている。
学校で習得した技術を忘れない為にと受講している
Webデザイン講座も終わり。
先生から勧められたテキストを買おうと、
本屋へ向かっている途中で利沙から電話が入った。
『やっほ~、これから何か予定ある?』
「本屋に行って、後は帰る」
『じゃ、明神さんの酔桜祭り行こうよ。
本屋は何処?』
「神田の三省堂」
『ほな目と鼻の先やん。私もこれからすぐ出るから、
終わったら電話して』
「分かった」
通話を切り、駅に向かう。
本当は、各務の支社がある所のお祭りには
行きたくなかった。
でも先生に勧められた本は三省堂オリジナルなので
そこでしか売っていない。
店は駅に近いし、万が一、偶然会う事があっても
逃げ道はたくさんある。
と、気持ちを切り替え、バスに乗った。
