オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第2章 家族について
余程慌てていたのか?
単なる掛け忘れか ――、
玄関のドアに鍵はかけられていなかった。
その瞬間、何故か分からないが酷い違和感を
絢音は感じた。
嫌な胸騒ぎもする。
…… ゆっくり玄関のドアを開けた。
そうして玄関の上がり框に綺麗に並べられた
男物の革靴を目にし、絢音は少し眉をひそめた。
(お父さん? じゃあ、ないよなぁ……)
さっきからずっと止まらへん、この胸騒ぎは
何なんやろ……。
ドックン ドックンと、さっきまでの弾んだ鼓動
とは全く別の、嫌な動悸が絢音を支配しつつ
あった。
音をたてないようにスクールシューズを脱ぐ。
そうっと上框にあがったその時、
か細い女の声が飛び込んできた。
それがLDKから聞こえているものだと気付いた
瞬間、ますます絢音の動悸は激しくなった。
震える手でLDKのドアノブへ手をかけた。
「あ……んふ……いぃ……」
その時にはもう、女の喘ぐ声がはっきりと絢音の耳に
届いていた。
意を決し、そのドアを開けようとした時、
肩に手が置かれ絢音は危うく悲鳴を上げかけた。
「ひっ ――!!」
その手は、3つ上の姉・初音の物で。
初音は素早くもう一方の手で絢音の口を塞ぎ、
絢音を引きずるような感じで階段の方へ誘う。