オオカミは淫らな仔羊に欲情する
第20章 季節は冬へ
―― 港南台高校・教職員室。
絢音と利沙が美術教師の手伝いで一緒に教材を
運んでくる。
「いやぁ~、放課後なのに呼び止めて悪かったな。
おかげで助かったわ。ありがとう」
「いいえ~、どう致しまして」
「じゃ、私達は失礼します」
2人は出入り口へと向かうが、途中、絢音はやけに
机上がこざっぱりと片付いている机に目を止めて、
立ち止まった。
利沙が小声で呟く。
「やっぱ**先生が戻ってくるって本当だったんだね」
「うん……」
”**先生” とは今まで育休を取っていた
化学教諭だ。
この度、お子さんが無事認可保育園へ入園し、
明日から職場復帰の運びとなった。
絢音が目を止めたのは今まで各務が使っていた机
なのだ。
「……行こ。あや」
「うん……」
絢音にとって”各務竜二”という存在は
小6の時、あのまま放っておいたら確実に
不良への道へ突き進んでいた自分を、
世間から白い目で見られない程度に
軌道修正してくれた導き人で。
京都で再会した時は2回とも ”もしかしたら”
って気はしていたけど、各務があの時の導き人だと
確信したのは港南台で3回目の再会を果たしてからだ
それに、あんな事今は思い出すのもチョー恥ずかしい
から、忘れたふりをしていたが。
京都のフィガロで過ごした熱いひと時は今でも
しっかり覚えている。
ってか、各務への気持ちが”好意”に変わっていった
頃から、どこで会ってもあの時の情景が脳裏に
浮かんで、ホントに困った。
先生が元の仕事に戻ってしまえば今までのように
顔を見ることさえ難しくなる。
寂しい。
思いなんか伝えられなくたっていいから、
あと、もう少しだけ一緒にいたかった……。