テキストサイズ

my destiny

第17章 君への想い

【翔side】

話してみると、男は本当に結構良い人だったみたいで。「犯罪者」という先入観を持ってしまうことの恐ろしさを、俺に身をもって教えてくれた。

だからって、この男がやらかした騒ぎが正当化されるわけじゃない。

俺は智君を本当に失うことになるのではないかと生きた心地がしなかったし、男が行き当たりばったりに短絡的な行動を起こしたのを是とは出来ないけど。

それでも、人が行動を起こすのには必ずそこに至るまでの積み重ねた気持ちがあって、例え他人には理解されなくても、当人には譲れない理由があるのだ。

それを俺はこの後も、忘れることはなかった。

男は震災で津波に家を流された人で、妻も、娘も、母親も、亡くなったそうだ。

父親から受け継いだ板金工場を家族で経営していて、地震が起きた日は、たまたま男だけが外出していた。

生まれて間もない娘を抱いた妻の遺体が見つかったのは、地震から何か月も経ってからだったという。

波をかぶった工場は使い物にならず、修繕もせずに残骸を放置したまま、男自身も抜け殻状態で、ただ息をしてるだけの毎日を生きていた。

最後まで見つからなかった母親のものと思われる遺骨がやっと戻り、あの日、いよいよ家族の元へ行こうと心を決めて。

ガソリンは自殺用にと自分で車から抜きとって用意したと言った。

あてつけに結婚式を挙げた神社で自殺をしようとして、どうしても出来ずに、どこか別の場所で、最期に騒ぎを起こして死のうと考えた、と話した。

乗客を人質に取ることはおろか巻き込むつもりは端からなく、注目される為には人が多い東京へ行った方が良い、と酔った頭で単純に考えたんだそうだ。

せっかくあの災害を生き残っても、死を選ぶしかない奴がいることを知って欲しかった、って。



「お前らがバカボンの名前出したりすっからさぁ
もう、諦めるしかねぇべなぁ

アイツ、好い奴なんだよ
バカのくせに面倒見が良くて…

アイツの子供が死んでからは
どう付き合っていいかわかんねぐなってさ
付き合いが途絶えてたのさな

そしたっけ
いざ死のう、って時に親戚ってのが突然現れて
そいづが超有名人だべ?

そりゃあ、おどげでなくビックリするっつうの
酔いも醒めたわ
なんなんだよ、一体
ウケるよな」



俺の嫁、お前らのファンだったんだ、頑張れよ。

そう言って、電話口の男は笑った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ