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徒然に。

第13章 KLEIN kino newage

「はいこれ」
初夏の暑さに身体がまだ慣れぬ雨上がりの日、貰ったのは一つの杖でした。
アリアウィッチと謳われるくらいの立派な大人になる事を目指したいと云った私にいきなり差し出した。
(覚えてくれていたんだ)
とても嬉しい気持ちでした。
「思ったほど高くないんだね?子供用だからかな?」
それが貴方の口癖でした。
「また子供扱いする!!」
私の怒りを高笑いしながら頭を撫で、
「杖を扱えたら一人前だろ?これから頑張んな、やりたい事なら悔いなくやり遂げろよ?」
軽く背中を押す。

貴方の言葉がどれだけ力強いのか、きっと貴方だけが気付いていない。
貴方の言葉の魔力ほど、耳触りの良い音だと、きっと貴方だけが気付いていない。

それは誰もが知る事だった。貴方を知る人なら知っている事だった。私もその一人でしかなかった。その事がどれだけ悔しい事か、やはり貴方は知る事はない。

「大人になったらまた此所で会えるかもな?待ってるよ、タカもさ」

あの方は誰もが知る王族の一人。貴方はあの方の護衛がお仕事。それでもそれ以上だと、私が知っている事を、貴方は気付いているだろうか?
貴方の心にあの方がいて、何にも代えられないくらい大事で揺らぐ事のない場所にあると分かっている。
貴方とあの方では身分の隔たりがあり、同性の隔たりがあり、何にも代えがたい双方の心の意地という隔たりがある。
叶わぬ想いだから想うのでなく、貴方だから、あの方だから大事であって型にはめられぬ、他者の言葉の魔力などでは揺らがぬ絆を確信している双方だから隔たりを失くす事を選ばぬ、というだけの事。

もしこの後、自分が大人になる事が出来たならあの方とこの話しが出来るだろうか。眼を見てあの方の顔に自分の顔をさらして何にも揺らがぬ心の言葉を話して聞かせる事が出来るだろうか。優しい自分を見せられるだろうか。

「大丈夫だって。杖に願いを架けたから」
「またな、いつでも遊びに来い」

なんて軽い。王宮は遊び場でないのに。
貴方の顔を見る事が出来ずに涙をこらえてうなずくのが精一杯だった私の事などあの方が気付いているわけがない。
子供の私はそう言って最後まで貴方を困らせた。


子供の私に決別する日、自分の事だけに手一杯な私は結局、貴方の身体に阻まれてあの方が窓越しにこちらを見ている事を知る事はなかった。

    cryの先に欲しいのは友達。

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