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時計じかけのアンブレラ

第4章 それから

宮城のライブ以降、智君は俺の家に泊まりに来ることが無くなった。

当たり前だ。
俺はあの時、何もしてやれなかったのだから。
信頼が揺らいでも仕方ない。

とにかく話し合いはライブが終わってから、と事務所に言い含められて、4人で様子を見ているうちに。
気づけばあの人だけが、たった一人ですべてを背負わされ、それであの件は終わったことになった。

俺がどんなに口うるさく、真相を明らかにするべきだ、と申し立てても、事務所は取り合わないし。
終わったことだ、の一点張りで。

俺ら4人は、一番辛い立場に立たされて傷を負ったあの人を、なすすべもなく見ているしかなかった。

何故ならあの人自身が、それに触れることを決して許さなかったから。

あれから一度も、二人でちゃんと話せてない。
仕事で会っていても、誰かがこの話を持ち出そうとするとスルリと躱される。

何とかスケジュールの調整をつけて、何度も俺から誘ってはみるけど。
眠いとか、疲れてるとか言われて。
実際にずっと元気がなかったし。

ごめん、って。
すまなそうに小声で言うあの人を見ていたら、もう無理強いは出来なかった。

何とかして智君の傷を癒したいと、ジリジリと見守る俺達をよそに、あの人はいつの間にか声を出さずに唇だけで笑うようになっていった。

一度、業を煮やして、あの人の部屋へ押しかけたことがある。

別れたいの?と問いかけた俺に、あの人は今にも消えてしまいそうに、弱々しく微笑んで。
翔君がそうしたいならいいよ、と答えた。

「俺は貴方を愛してる」

他に言える言葉もなく、俺が差し出せるのはただ一つ、真の心だけで。
拒否しないで欲しいと、それだけを願ってた。

「うん…知ってるよ…」

「貴方が弱い人じゃないことは良くわかってるよ
でも、俺にも力にならせて欲しいんだ
苦しい時に支え合えないなら、何のための二人なの?」

大きな声を出さないように気をつけながら、お願いだから俺を受け入れて、って。
実は物凄く男らしいこの人に、関係を断たれてしまうんじゃないかって。
怯えていたのは俺の方だった。

「翔君がどんなにオイラを大事に思ってるか
きっと翔くん自身よりもオイラの方がわかってると思うよ」

智君は聞き取れないような小声で言って、だけど今は、メンバーに戻って欲しい、と続けた。


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