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君の光になる。

第4章 知らない女性

「はい……立花夕子です」
 
 夕子は小さくうなづいた。
 
「安倍くんのことで……」
 
 ――安倍くん……?
 
 胸が高鳴る。安倍の唇の感触が蘇る。耳が熱い。
 
「……ああ……はい……それで?」
 
「立花さんあなた、安倍くんとは……」
 
「……ああ、私……何度かここでお話したくらいで……」
 
「ああ……ですよね?」
 
 女性の声に笑みが含まれた。夕子の右側が小さく軋んだ。石鹸の匂いが右に移った。女性が言った「ですよね」の意味は分からなかったが……。
 
「だけど、安倍くん、彼面白い人でしょ? この前なんて……」
 
 ――この前……。私にキスしたとでも言ったのかしら……。
 
「はい……」
 
「この前、目隠しして長い棒を持って……」
 
「目隠しして……それで……?」
 
「躓《つまづ》いちゃって……」
 
 ――躓いたって、目隠しして……。
 
「バカ……ですよね? 捻挫までしちゃって……ね?」
 
 ――もしかして、私を……。
 
「ふふふ、そうですね」
 
 夕子は石鹸の香りの方を向いた。安倍が重ねた唇が少しこそばゆい。指先で自分の唇をなぞった。
 
「あ……じゃ、私は……」
 
 石鹸の匂いとカツカツという音が遠ざかる。

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