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君の光になる。

第7章 化粧

「お母さん、お母さん……」
 
 翌朝、夕子は母親を自室に呼んだ。
 
 パタパタとスリッパが跳ねる音が上がって来た。
 
「どうしたの? 夕子、朝っぱらから……」
 
 線香の煙の匂いがフワリと薫った。
 
 シャっとカーテンのレールが滑る音が聞こえる。キラキラとした光を感じる。
 
「お母さん、あの……私、お化粧がしたいの。ダメ?」
 
 ふうっと息を吐く音が聞こえ、「いいわよ……」という母親の声が少し籠もっていた。
 
「……いいの?」
 
「……いいに決まってるじゃない……女の子がお化粧するのは当たり前よ?」
 
 夕子は自室で化粧品の匂いに包まれていた。時々、母親の鼻をすする音が聞こえた。夕子も涙が溢れた。
 
 甘く少し脂のような匂いが唇に引かれる。口紅だ。
 
「お母さん、覚えてる。小さいころ、お母さんのお化粧をイタズラして……あのときの匂いと同じだわ」
 
「覚えてるわ。夕子ったら、顔中に口紅をつけて凄くご機嫌だったのよ。それをお父さんに話したら大笑いだったのよ」
 
 母親が笑い声が聞こえた。夕子も笑みが溢れる。

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