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風に吹かれて

第15章 SURVIVE

SURVIVE.
奇しくも日付は3.11だけど、震災の話ではない。


今年1月2日の朝は、濡れた布団の冷えた感触で目を覚ました。
嘘でしょ!?と飛び起きたら、やらかしたのは自分ではなく飼い猫。

ストレイキャットが我が家に居ついて14年。
初めての粗相だった。
殆ど臭わないオシッコに驚き、連れて行った獣医で末期の腎不全と診断された。

あれから2ヶ月。
もう固形の物は食べられないし、自力で排泄も出来ない。
けど、彼女はまだ、頑張って生きている。

薬が強いのか認知症気味で、ぼんやりした表情が多くて。
話も出来ないから、今の彼女がどういう気持ちで日々を過ごしているのかは、わからない。

苦しいのか、そうでないのか。
して欲しいことはあるのか。
かまわないで欲しいのか。
少しでも長く生きたいのか、そうでないのか。

褒め言葉の大盤振る舞いをして撫でてやりながら、頭を過ぎるのは「今日の日はさようなら」だ。



辛くて向き合えない日は、逃避で青君のことを考える。
すると、可愛い笑顔に安心して癒やされる。

それでも、やがて、思考は生命にたどり着いてしまう。

仕方ない。
生命を看取るとは、そういうこと。
それでなくとも今、世の中では致死率の高いウイルスの話でもちきりだし。



今年の正月、アラツボで。
彼が後輩に『地獄だぜ』とサラッと言ったのが印象的だった。

意外と使わないワードだから。
本当に本心からソレを実感したことがある人でないと、選ばない言葉だと思う。

いつだったか、雑誌に載っていたと思うんだけど。
一頃、彼は『野生動物のドキュメンタリーをよく見てる』と言っていた時期があった。
ああ、もしかしたら、何か良くないことが起きているのかもしれない、と直感で思った。

善悪関係なしに容赦ない、生きたい欲が強い者だけが勝つ無慈悲な世界。
理不尽さを叫んでも救いは来ない、生き残れるかどうかの瀬戸際。

そのシチュエーションにハマるのは、自身がそういうギリギリの精神状態で立っている時だから。
自分の経験から、私はそう理解しているので。

だから後に『命がけだった』と口したのを見て、言葉に出来るなら、もう乗り越えたんだな、と思った。
もう、最中ではなく過去になったのだろう。
良かった、本当に。



神様。
どうか私の愛する生命が、今夜も安心して良く眠れますように。


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