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満代の話。

第1章 満代の話。

満代の話。
満代は、中学、高校と陸上の選手だった。
高校生の時には、全国大会に出場する程のレベルまでになっていた。
種目は走り高飛びと、走り幅跳びの2種目。
満代は、先輩や顧問の先生の期待に応え練習に励み、精進したのだ。

整った顔立ちのせいもあり、よく異性同性に関わらず、告白の手紙をもらった。この時、満代は異性からの告白よりも、同性からの手紙の方にときめていた。
高校三年生の時には、幼いながらも同性との恋愛感情すら自覚していたのだ。
卒業後、その身体能力を買われ地元のメーカーに、陸上部員として就職した。

しかし、2年目の春、突然、そのメーカーの業績悪化の影響を受け、所属する陸上部は廃部となってしまった。
陸上部の廃部から1年後、彼女も退社した。

高校卒業時に、就職ではなく大学進学を選んでいればと悔やんだが、当時の実家には進学させるだけの資力がなかった。

満代は退職後、陸上とはきっぱりと縁を切り、趣味で地元のバレークラブに入り、体を動かす事だけは続けていた。
28歳の時、親の進めるままに地元の中学教師と結婚。

しかし、その5年後、子供も出来ないうちに夫は病に倒れ、満代を残し亡くなった。
満代の30代は、自分一人が生活できればと転々と就職、退職を繰り返した。
40歳になろうかという時に、実家のある町に帰り、親戚が経営していた喫茶店を譲り受けた。
夫との死別後、何人かの男とも付き合ったが、すべて長続きしなかった。

近頃、満代はその理由を、自分の性的な趣向にあると気づいた。
つまり、(私は異性愛者ではなく、同性愛者なのだ)と。

そんな自分の志向を30代の頃には、理解はしていたが、認めるのが怖かったのだ。(二度と男の人と、結婚できなくなるかもしれない)と、思った。

しかし同性愛者としての欲望は抑えられず、地元から遠く離れた都会に定期的に出かけ、その同性に向けられた“欲望”の消化につとめた。

きっかけは旅先のホテルだった。
地元のバレークラブが、旅行と遠征を兼ねて都会のクラブチームとの親善試合を計画した。
満代もレギュラーメンバーの一人としてその試合に参加した。
時期は5月の連休が終わった直後の週末だった。


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