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カトレアの咲く季節

第6章 花の舞

 広場には、噴水を囲うようにして多くの人々が集まっていた。
 誰も彼も、鈴のついた花飾りを片手に結いている。
「ほらっ、あんたたちも」
 手渡されるままに受け取って、アレクとユナもその輪に混じる。

 収穫祭の目玉の一つである、花の舞。それは収穫の女神、フレンを讃え、今日の糧に感謝する踊りだ。
 澄んだ空に、軽やかな笛が鳴り響く。人々の手に付けた鈴が明るいリズムを刻む。

 手に手を取り合って、アレクは踊った。
 ほんの小さな子どもの頃から何度も舞っているから、すっかり体はリズムを覚えている。鈴が鳴るように手を振り、足を地面に打ち鳴らす。跳ねて、回って、また次の相手の手を握る。

 ユナと、学校の友人と、商店街の大人たちと。皆一様に、太陽のように輝いた笑顔で手を伸ばしてくる。負けじとアレクも笑ってその手を握る。

 踊りの終盤に差し掛かると笛が次第に早くなる。
 もつれそうになる足を必死に動かして、しゃんと鈴を鳴らす。誰かの鈴が遅れ、誰かがはしゃぎすぎて転ぶ。
 それもまた、毎年の光景。

 ぴぃっと高らかに笛が鳴って、全員が同時に手を打ち鳴らした。それが、踊りの終わる合図だった。
 アレクは膝に手をつき、ずっと動いていたせいで上がった息を整えようとした。

 やがて、誰からともなく手を叩く。それは鈴の音と重なって広場を揺るがすような壮大な拍手になる。
 アレクも荒い息を吐きながら、手を叩いた。空の上にいる神にも届くように。拍手と鈴と、人々の笑い声。女神フレンの耳を楽しませるように。

 しかし、少し離れたところでどさりと何かの倒れる音がして、アレクはハッと我に返った。
「あらあらちょっと、大丈夫?」
「おい、どうした?」
 騒めきのする方へと駆け寄れば、日に焼けて熱くなった地面にうずくまる人影があった。
 うつ伏せのその髪に飾られた、銀色のカトレア。

「ユナ!」
 アレクはぞっとしてその傍らに跪いた。長い髪を掻き上げれば、血の気のない首筋が覗く。そのあまりの細さに自分を責める怒りがふつふつと沸き上がる。
「ユナ!」
 呼びかけに応じて、ユナが微かに頭を動かす。

 ふっと、周囲の空気が冷えた気がした。
 不思議に思ったアレクが顔をあげれば、先ほどまでの晴天が嘘のように、一面が厚い雲で覆われている。
 そしてそんな中でも、太陽と同じに輝くものが見えた。

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