カトレアの咲く季節
第1章 プロローグ 〜花の街〜
明日から開催される収穫祭の準備で、ノートルードは賑わっていた。
商店街を見回せば、目につく看板にはどれも大きな花輪が飾られている。収穫の女神を讃える、白いカトレアの花輪だ。
「今年の花輪も抜群に綺麗。さすがはユナだね」
アレクが隣を見上げて褒めると、長いお下げを揺らして、ユナはくすりと笑った。
「違うのよ。今年の花輪をこしらえたのは、ほとんどライなの」
「ライが? まさか」
思いもかけない名前に、アレクは思わず顔を顰める。
2ヶ月ほど前にどこからともなくふらりと現れて、そのまま花屋の隣の空き家に住み着いてしまったライ。真っ白い肌にこの国にはいない金色の髪をして、少女のように可憐に笑うその少年が、アレクはあまり好きではなかった。
幼なじみのユナが可愛がっているようだから尚更だ。
「もう、そんな顔しないで」
ユナは皺の寄ったアレクの眉間を撫で、困ったように笑った。歳下の幼なじみに手を焼いているというようなその仕草に、アレクはますますぶすくれる。
「収穫祭は一緒に周りましょうよ。薬屋さんにこれを届けたら、お祭りが終わるまで仕事はないんですもの」
ユナは両手に抱えたカトレアの花輪を持ち上げて、アレクの顔色を伺うように首を傾げた。
「チーズパイでもかぼちゃのクッキーでも、なんでも好きなものを買ってあげるわ」
「何だよユナ、そんなの子どもの食べ物じゃないか」
アレクは拗ねたように唇を尖らせる。けれど、ユナの挙げた食べ物は、この街の多くの子どもたちと同じでアレクの好物でもあった。
特に、仕立て屋のレーラが作るチーズパイは、収穫祭のときだけしか食べられないご馳走だ。
「山葡萄のジュースをつけてくれるんなら、いいよ」
「もちろん。じゃあ約束ね」
ユナはふわりと微笑む。
それは街中の青年が振り返るほどの美しさで、アレクは静かに見惚れる。アレクの父はよく、ユナの前では収穫の女神フレンも裸足で逃げ出すだろう、と言っていた。
本当に、その通りだと思う。
「さ、早く行かなくちゃ」
「貸して、俺が持つよ」
アレクはユナから花輪を受け取ると、先導するように歩く。
石畳の道は日の光を受けてキラキラと輝いていた。今日も良い天気になりそうだ。
商店街を見回せば、目につく看板にはどれも大きな花輪が飾られている。収穫の女神を讃える、白いカトレアの花輪だ。
「今年の花輪も抜群に綺麗。さすがはユナだね」
アレクが隣を見上げて褒めると、長いお下げを揺らして、ユナはくすりと笑った。
「違うのよ。今年の花輪をこしらえたのは、ほとんどライなの」
「ライが? まさか」
思いもかけない名前に、アレクは思わず顔を顰める。
2ヶ月ほど前にどこからともなくふらりと現れて、そのまま花屋の隣の空き家に住み着いてしまったライ。真っ白い肌にこの国にはいない金色の髪をして、少女のように可憐に笑うその少年が、アレクはあまり好きではなかった。
幼なじみのユナが可愛がっているようだから尚更だ。
「もう、そんな顔しないで」
ユナは皺の寄ったアレクの眉間を撫で、困ったように笑った。歳下の幼なじみに手を焼いているというようなその仕草に、アレクはますますぶすくれる。
「収穫祭は一緒に周りましょうよ。薬屋さんにこれを届けたら、お祭りが終わるまで仕事はないんですもの」
ユナは両手に抱えたカトレアの花輪を持ち上げて、アレクの顔色を伺うように首を傾げた。
「チーズパイでもかぼちゃのクッキーでも、なんでも好きなものを買ってあげるわ」
「何だよユナ、そんなの子どもの食べ物じゃないか」
アレクは拗ねたように唇を尖らせる。けれど、ユナの挙げた食べ物は、この街の多くの子どもたちと同じでアレクの好物でもあった。
特に、仕立て屋のレーラが作るチーズパイは、収穫祭のときだけしか食べられないご馳走だ。
「山葡萄のジュースをつけてくれるんなら、いいよ」
「もちろん。じゃあ約束ね」
ユナはふわりと微笑む。
それは街中の青年が振り返るほどの美しさで、アレクは静かに見惚れる。アレクの父はよく、ユナの前では収穫の女神フレンも裸足で逃げ出すだろう、と言っていた。
本当に、その通りだと思う。
「さ、早く行かなくちゃ」
「貸して、俺が持つよ」
アレクはユナから花輪を受け取ると、先導するように歩く。
石畳の道は日の光を受けてキラキラと輝いていた。今日も良い天気になりそうだ。