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奇跡を信じて

第8章 田村のファン


「お待たせしました。どちらまで行かれる予定だったのですか?」と私が尋ねると、

「この近くのK大学病院です」

 私(田村)は彼女の自転車を押してあげることにした。

「失礼ですが、通院されているのですか?」と私は聞くと、

「いえ、私でなく孫が昨日、入院したと連絡が入りまして....」

「お孫さんは、おいくつなのですか?」

「今は確か、五歳で幼稚園に通っています」

「早く退院ができればいいですね」

そして、彼女は私の顔を不思議そうに見ると、
「大変失礼ですけど、ジャガーズの田村選手に似ていると言われないですか?」と彼女が聞いたため、

「たまに言われますね」と私は少し笑った。

病院までの数十分、私達はジャガーズの話などをした。

すると、彼女の孫がジャガーズのファンであるということ、そして、田村のこともよく知っていると言ってくれた。

病院が近くに見えてくると、
「ありがとうございました。こちらで結構です。お時間をとらせてしまって申し訳ありませんでした。ところで、さっきバスに乗っておられた人達は先に行かれたのですか?」と彼女が聞くと、

「ええ、先に行きました。でも、ここから車で15分くらいのところですので」
と私が言うと、彼女はいきなり財布を取り出して、

「失礼ですけど、受け取って下さい」と言い、お金を渡そうとしたのだ。

「いえ、それを受け取ることはできません」と私は断った。

私は、正直に話すことに決めた。

「実は、私、ジャガーズの田村です。嘘をついてすみませんでした。あと三日間は大阪にいますので、お孫さんのお見舞いに行ければいいのですが....」

「ありがとうございます。孫に自慢ができました。ジャガーズの田村選手に会ったよって。きっとびっくりすると思います」と彼女が言った。

「もし、よろしければ、お孫さんの名前を教えて頂けますか?」と私が聞くと、

「大地です。村山大地と言います。 大地の父親がジャガーズのファンで、大地が二歳くらいの時から、ずっと一緒に応援しているのですよ。田村選手がテレビに写ると、大地は(タムだ、タムだ!)と言って喜ぶのです」

「そうなのですか? 嬉しいですね。大地君に(頑張って、早く治してね)と伝えて下さい」と私は言った。

 そして、私はタクシーを拾い、宿舎のホテルへ向かった。

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