不純異性交際(下) ―それぞれの未来―
第36章 過去と現在
互いの近況報告をし、やがて料理が運ばれてきた。
私がフォークに和風スパゲッティを巻き付けて頬張ると、奈美もオムライスを口に含んだ。
お喋りをしながらも半分ほど食べ終えた頃、がやがやと4~5名の女性が入ってきた。
どうやら”予約席”の主のようだ。
「なんだか今日は混んでるね」
何気なく言うと、奈美もうなずいてチラリとテーブル席を見た。
「………えっ…?!」
私にしか聞こえない音量で奈美は短く息を吐き、目が泳いでいる。
「どしたの?」
私も振り向こうとすると、知らない女の声がした。
「紀子なに食べる~~?」
…
私は振り返るのを途中でやめ、奈美の顔を見て固まった。
彼女もまた、目を見開いて固まっている。
「ちょっと、落ち着こう…」
「う、うん…」
私たちは小声で話すと、前を向き紅茶を飲んだ。
半分残った食事をまたのろのろと食べ始めるが、なんだか胸騒ぎがして味覚を感じない。
…
「大丈夫?」
奈美が声をかけてくれた直後、また後ろから話し声が聞こえた。
「最近どう~?」
-----…
「もうすぐ離婚して1年だよ~」
「もうそんなに経つんだ?早いねぇ。どうよ、心境は~」
「べつにぃ。」
-----…
「なんか、同級生と付き合ってるみたいなんだよね。ウケるっしょ」
「マ~ジ~??相手分かってんの?!」
「うん」
「すごい展開~…」
-----…
紀子が、私と瀬川くんの関係を知っていた。
新年会での出来事もあり、不思議ではないもののやはり動揺してしまう。
奈美が心配そうに私を見る。
「大丈夫…」
小声で言い、残りの食事を終えた。
カウンター越しに会計を済ませ、上着を着ようとした瞬間、さっきよりも少し大きい声で紀子が言った。
「マジ、なんっにも役に立たない奴だったわ」
…心臓がドキリと跳ね、私は自分自身の感情が分からなくなった。
怒りなのか悲しみなのか、名前のない感情。
思わずアップルのレシートを握りしめ、じわりと汗をかいた。