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変態ですけど、何か?

第13章 玲子先生 ~留学~

懐かしさと、嫌な予感を覚えながら、ハサミでエアメールの封を切る。

『私の里帆へ』

その書き出しに、私は微かな安堵を覚えた。

今まで、何度もやり取りをした手紙の書き出しだったから。

『里帆。
長い間、手紙も書かずにごめんね。

今さらだけど、コンクール、予選落ちだった。

悪くても本選まではいけるだろうと、私も自信があったし、先生も太鼓判を捺してくれてたから、本当にショックだった。

あのコンクールの舞台に立っていると言うことで、私自身が信じられないようなミスを連発して、
舞台を降りる時には、審査員から失笑が漏れていたのが、忘れられないわ。

でもね、それって当たり前のことなのね。
どんな大舞台でも、どんなにコンディションが悪くても、それなりのレベルは維持して演奏できるのがプロだものね。

私は、その入り口にさえ立てていなかったってこと。

私は、すっかり自信を失って、先生のところもやめた。
先生は、もう一度5年後に挑戦するように言ってくれたけど、
どうしても乗り越えられなかった。

幸い、生活のためにしていたピアノ教室が、まあまあ順調だったから、
日本には帰らずドイツで生活を続けていた。

里帆からは何度も手紙もらったのに、返事も書かずにごめんね。

弁解はしないよ。
ただ、あんなに応援してくれた里帆に、何て言ったらいいのかわからなかったの。

本当はね、もう連絡は取らないつもりだった。

いつまでも、私の勝手で、里帆を縛り付けておくのは良くないって思ってたから。

なのに今日、里帆に手紙を書いたのは、私の生き方に大きな転機が訪れたから。』



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